
スマートメーターの現状・顕在化していた課題とは?
<手代木主任>
当社は、2023年度までに供給エリア内全需要家(お客さま)分として約700万台のスマートメーターを設置し、保守・管理していくことになります。
スマートメーターの特徴や機能はご存じでしょうか?電力使用量を30分単位で記録し、その記録をスマートメーターや中継器による無線通信で定期的にサーバーへ伝送することから、「電力使用量の見える化」や「遠隔自動検針」が可能となります。
これにより、お客さまは、HEMS※を活用することでピークカットなど電気の使い方の工夫ができる、当社は毎月行っている現場での検針が不要となるなどのメリットが得られます。
※Home Energy ManagementSystemの略、家庭内の電気を使用している機器について、電気の使用量や稼働状況を把握し、電力使用の最適化を図るためのシステム

一方、スマートメーターは無線通信を行うため、何らかの原因で通信障害が発生し、検針データの収集等ができない場合があります。
無線通信設備を効果的に構築することで、通信障害の未然防止や発生の減少に努めているのですが、停電をはじめ地形・建物等の障害物、積雪などの自然現象、設備の経年劣化などにより、通信に影響が出る場合があります。
また、スマートメーターの端子カバーが開放されるなど、通信障害以外の異常を検知する場合があります。スマートメーターは、こうした様々な状態変化を「イベント」として検知し,そのなかで人の対応が必要なイベントを「要対応イベント」として管理しています。
要対応イベントが発生すると、その種類に応じて、対応個所が内容を把握し、スマートメーターの通信状態を確認するなど、机上で初期対応を行います。初期対応でイベントが解消せず、スマートメーター本体を確認する必要がある場合は、電力センターのお客さまサービス課と配電関係課が連携して現場対応を行います。
また、通信障害の対策を検討するためには、通信経路収集率、地形や建物などの障害物、中継器の設置位置等の情報を収集・調査する必要があるのですが、これまでは複数のシステムを使用することに加え、情報のほとんどが文字や数値情報(受信信号強度(RSSI 値))のため、分析に専門的な知識やスキルが必要なこと、分析しても通信障害の経路を特定することが難しいこと、さらに調査範囲が広いため、障害発生個所周辺において他のスマートメーターの通信状況を確認できないなど、多くの課題が顕在化していました。そのため、調査・検討に時間を要し、非効率な状態になっていました。

誰でも簡単かつ迅速な調査・検討を可能にするため、1つのシステムで、電子地図上にスマートメーターや通信経路等を分かりやすく可視化し、専門的なスキルを持たなくても調査・分析・対策の実施までできないかを考えました。
導入した新システム「スマートメーター通信ネットワーク管理システム」とは?
<高橋主任>
電子地図上にスマートメーターや通信経路等を可視化するために必要な技術が「GIS(地理情報システム)」です。
GISのサービスを行う会社は多数存在します。私たちは、次の4点をポイントに、スマートメーター管理におけるシステム化要件を満たすGISを選定することから開始しました。
- スマートメーター、配電設備(電柱、変圧器、低圧線等)および通信エリアマップ等の情報を他のシステムから取得した座標情報をもとに、電子地図上へ一元的に表示できること
- 表示する情報の登録・削除・更新が容易であること
- 大規模なカスタマイズを行うことなく標準機能で当社ニーズを実装できること
- 低コストであること
複数社から提案を受けた結果、採用したのが、米国Esri※ 社が提供する「ArcGIS」。そこに、MDMS※や配電図面・設計書作成システム※の設備データなどを連係できるようにカスタマイズして開発されたのが「スマートメーター通信ネットワーク管理システム」です。
このシステムにより、これまで複数のシステムから収集していた調査・検討に必要な情報を一元的に収集・管理・確認できるようになりました。

※米国Esri社は、GIS のソフトウェア企業として世界有数の企業。米国内の主要200 都市をはじめ、各国の政府機関、世界の一流企業350 社以上、7,000 校を超える大学など、世界30 万以上の企業・団体で利用。なお、日本法人のEsri ジャパンは、GIS 国内最大手。
※Meter Data Management Systemの略。スマートメーターや中継器の情報を受信・管理するシステム
※配電設備の設計や管理に活用しているシステム
具体的な機能については、次のとおりです。
1.通信経路等の可視化
スマートメーターや中継器等の通信経路および配電設備を電子地図上に可視化。受信信号強度(RSSI 値)にあわせ通信経路等の表示を変化させることで、現地の設備・通信状況を視覚的にリアルタイムで把握できる

2.通信エリアマップの表示
スマートメーターの通信方式は、スマートメーター同士で通信を中継するマルチホップ方式や携帯電話回線を用いる方式など、複数ある。各通信方式に対応するエリアを可視化することで、適切な通信方式を速やかに判断できる

3.衛星写真の表示
スマートメーターの通信障害は地形や建築物のような障害物など、周囲の環境により発生することがあるため、本システムでは高解像度な衛星写真もシステムの背景地図に選択できるようにし、周囲の地形や障害物を鮮明かつ立体的に確認できる

その他にも、「通信障害を起因別に管理する機能」「複数回発生している通信障害に対し、原因や対応結果を一括して登録する機能」など、業務を支援する様々な機能を実装しています。
一大プロジェクト成功の裏には
<高橋主任>
開発は、約4年前から本格的にスタート。配電部、情報通信部、システム開発委託先のトインクスさんを合わせて96名のメンバー・体制で開発に臨みました。
システム化の要件定義~基本設計~詳細設計~実装~テストなど、各段階でいろいろ苦労がありましたが、一番大変だったのは「システム処理のレスポンス」です。
使用する配電部門の方々の目線で、便利で・使いやすくて・有効なシステムとするには、約700万台のスマートメーター・中継器・配電設備データ、そして不定期に発生する通信障害などの膨大なデータを迅速に処理して、コマンドに応じて電子地図上に素早く表示しなければなりません。そのため、性能テストと改良のトライ&エラーを何度も繰り返しました。その結果、分単位だったレスポンスを数秒単位まで劇的に向上することができ、ようやく納得できるレベルを実現できました。トインクスの皆さんの相当な頑張りのおかげであり、関係者の方々には感謝しかありません。

<手代木主任>
システム開発と並行して注力したのが、ユーザーとなる配電部門関係者への説明です。通信という従来の配電業務にはない領域のため、通信基礎知識やセキュリティの重要性などの概念、操作方法まで、網羅的かつ分かりやすい資料作成や教育の実施に尽力しました。また、配電部門は工事系と管理系に分かれるのですが、両所属に理解してもらう必要があり、62の電力センターほぼ全員が対象となります。勉強会を多数開催したほか、現在も「分からない」などの声やリクエストがあれば都度対応しています。
システムが運用開始すれば終わりではなく、「システムのおかげで業務が効率的になった」と、ユーザーが有用性を感じ、満足していただくことがゴールです。そのことを忘れずに、日々システムの保守・運用に取り組んでいます。

導入の効果は
<手代木主任>
要対応イベント発生時には、本システムで必要な情報を一元的に把握できることや、電子地図上に通信経路などが表示されることで、視覚的に分かりやすくなるだけでなく、現場に出向く前にスマートメーター設置位置や、他のスマートメーターのイベント状況を詳細に把握できるようになりました。かつ、専門的な知識やスキルが無くても机上で原因予測に基づく障害改善対策の検討が可能になりました。その結果、1件あたり30分程度の時間短縮が可能となり、業務の削減および効率的な保守業務に繋げることができています。
<高橋主任>
現場の方から「調査が楽になった」「分かりやすい」などの声を頂戴しています。非常に嬉しく思います。
世界的な賞「2022年度SAG 賞(Special Achievement in GISAward)」を受賞
SAG 賞は、GIS 特別実績賞とも言われ、GIS のソフトウェア企業として世界有数の企業である米国Esri 社が設立した国際的な賞です。世界で30 万以上の企業・政府機関・自治体・大学・研究機関等の中から、先進的かつ革新的なGIS の取り組みによりコミュニティーや社会の変革に貢献した団体を表彰するものです。
日本国内では2004 年度から選出されており、今年度は国内約25,000 団体の中から唯一、東北電力ネットワークが受賞しました!
参考1:過年度受賞団体
- 横浜国立大学、国立研究開発法人防災科学技術研究所、(株)フジタ
参考2:2022年度国外受団体
- ウォルマート(米国)、クイーンズランド州営電力会社(オーストラリア)、香港機場管理局(香港)、
国立公園局(シンガポール)、英国陸地測量部(英国)など
<手代木主任>
私は2022年7月から担当となり途中からの参画でした。受賞できたのはこれまでに携わってきた皆さんが尽力してこられた結果です。システム開発は「通常稼働して当たり前」の世界。業務の土台であり、裏方です。この賞により、このプロジェクト関係者が日の目を見ることができたのではないでしょうか。栄誉なことであり本当に嬉しく思います。

<高橋主任>
この賞は業務改善だけでなく、「社会にどう貢献したか」についても評価されているようです。開発者冥利に尽きます。

今後の展望~これで終わりではない~
<高橋主任>
配電設備は、電柱の高さや、電線と建物との離隔距離など、立体的な管理を必要とします。今後は立体の電子地図の活用を視野に入れるなど、配電業務のさらなる効率化、高度化に向けて検討していきたいと考えています。
<手代木主任>
今回のシステム開発で得た知見を次のシステム開発に生かしていきたいと思います。
また、これまで書面運用していた配電工事設計業務の電子化という配電部門一大プロジェクトが、2022年9月に運用開始となり、新システムでの設計業務へ移行しております。こちらについても、今後、機会を捉えてご紹介いたします。