
ナノテラスついに運用開始!官民を挙げてお祝い
ナノテラスは、東北大学青葉山新キャンパスに建設された放射光施設です。
既存国内施設の約100倍の輝度で軟X線を発生させることができ、世界最高レベルの高輝度放射光施設として、国内外から大きな期待を集めています(過去記事)。
5月18日、ナノテラスの運用開始記念式典と祝賀会が開かれました。東北電力からは樋󠄀口社長が祝賀会へ参加。寄付企業として感謝状を授与されました。
BRIDGE探検隊~研究開発センターのナノテラス活用~
5月23日、我々BRIDGE取材班は研究開発センターが行っている実験を取材するため、ナノテラスへ向かいました。

到着した我々をロビーで出迎えてくれたのは研究運営グループの瀬川さん。
今回の実験の概要について尋ねると、「リチウムイオン電池を実際の運用に近い状態で充放電させながら、その劣化の状況をリアルタイムに観察するというものです。」と教えてくれました。
そもそもナノテラスが運用を開始したのは今年4月のこと。活用が実現したタイミングとしてはかなり早いように思います。
「研究開発に関する窓口として、ナノテラスについて東北電力グループ全体を先導することが研究開発センターのミッションです。したがって運用開始後の早い時期にナノテラスで実測定を行いたいと考えていたところに、今回の実験が合致しました。(瀬川さん)」
瀬川さんに案内されてフロアを下り、実験ホールへ。
- 実験ホールへの入り口
- 実験ホールを上から見た様子(2023.12撮影)
ホールにはビームラインごとに実験設備が並び、様々な団体が実験を行っています。
奥に進んでいくと、「8W」と書かれたビームラインにエネルギー利用グループの加藤主席研究員の姿が。実験のサポートを行う分析会社の方とともに、モニターに映し出された画像を見つめています。

加藤主席研究員(奥)
「蓄電池に当てた強力なX線がその内部構造の状況に応じて曲がる様子を撮影した画像を観察しています。1分ごとに撮影を行い、その画像の状況を分析することで、充放電にともなう蓄電池の内部構造の変化を知ることができます。新品の電池と劣化した電池の測定結果を比較し,劣化した際に電池のどの部位にダメージが大きいかを把握します。(加藤主席)」
加藤主席の隣には「放射線管理区域」と書かれたプレハブ大の小さな建屋が。立ち入り制限のため入ることはできませんでしたが、内部にはX線を撮影するイメージングプレート(カメラの役割をするもの)があり、その向こうに試料(今回は電源ユニットと接続された蓄電池)、さらにその奥にX線の放出口が見てとれました。X線による撮影はこの建屋の中で行われています。
「施設を使うのは今日が初めてなので、かなり入念な事前準備を行ってきました。その甲斐あって、今のところは順調に実験ができています。(加藤主席)」
- X線を撮影する建屋内は放射線管理区域のため、立ち入りが制限される
- 建屋内をWEBカメラ越しに見ている様子。オレンジ色の板に挟まれているのが蓄電池で、X線を通しやすいように非常に薄いものを用いている
これら使用設備の選定や実験のセッティングはどのように進めたのでしょうか。
「実験については(一財)光科学イノベーションセンター(PhoSIC)から色々なアドバイスをいただきました。何回もやり取りを行って、そこから申し込みをしたという流れです。東北大学の先生も相談に乗っていただける環境で、非常に助かっています。(瀬川さん)」と振り返ります。
ナノテラスが発生させることができる軟X線の輝度は既存国内施設の約100倍。今回使用しているビームラインはBL08W(X線回折)で硬X線ですが、その高い能力は実験する上でどのように役立っているのでしょうか。
「ナノテラスの強みはX線の強い輝度による時間分解能の高さです。例えるなら極めて強力なストロボのようなもので、例えば今回の実験で撮影に要する時間は1枚あたり数秒ですが、実験室レベルでやろうとすると1時間近くかかってしまいます。それだと1時間のうちに起きた変化をつぶさに観察することはできません。実運用に近い環境でのリアルタイムな観察は、ナノテラスだからこそ可能になったと言えます。(加藤主席)」

実験の状況をリアルタイムに確認する加藤主席(中央)と工藤研究室長(右)
東北電力は2月、系統用蓄電池による蓄電所をみずほリース株式会社と共同で建設することを発表しました(プレス)。これは再生可能エネルギーによって生じる電力の余剰や不足にあわせて充放電をすることで電力需給を安定させ、再生可能エネルギーのさらなる有効活用に繋げるとともに、蓄電池を用いた電力の売買による収益化を目的としたもので、蓄電池には現在、大きな期待がかかっています。
エネルギー利用グループの工藤研究室長は「蓄電池の活用を図るにあたり、もちろん蓄電池メーカーが公表している性能数値はありますが、ユーザーの立場で様々な使用状況を考慮して実際の運用環境における正確な性能を把握しておくのが重要だと考えています。」と今回の実験の重要性を強調。
加藤主席も「今回の実験は蓄電池の劣化を理解するためのデータを取得することですが、寿命の長い電池を作る手段が分かるヒントになることを期待しています。」と今後の展望を述べました。
- 工藤研究室長
- 加藤主席
研究開発センターでは6月にも同じような実験を行い、データの蓄積と解析を進めるとのこと。
蓄電池事業の未来は、ナノテラスの明るい光が照らすのかもしれません。