
原子力部(原子力設備) 飯田副部長
新規制基準適合のカギをにぎった「サプレッションチェンバ」 前例のない大工事への挑戦

原子力部(原子力設備) 飯田副部長
──女川2号機の耐震設計や耐震工事の中で印象に残っていることは何ですか。
一番はサプレッションチェンバの耐震設計の見直しに係る一連の対応です。サプレッションチェンバは圧力抑制室とも呼ばれ、BWRプラント(沸騰水型軽水炉)に存在するもので、原子炉格納容器の型式によって形状は異なりますが直径約50mのドーナツ状の構造物で内部に大量の水を常時貯蔵しています。原子炉格納容器内の配管が破損して蒸気が発生した場合に蒸気をサプレッションチェンバに導き冷却、凝縮することで原子炉格納容器内の圧力上昇を抑える役割や非常時に原子炉に冷却水を供給する役割があります。

新規制基準により女川の基準地震動は建設時の最大加速度375ガルから1,000ガルに見直されたことに加え、シビアアクシデント※への対策なども求められました。これは建設時の設計条件を大きく超えるものでしたので、耐震設計を見直し、改良工事を行う必要がありました。
※設計時の想定を超える過酷な状態に至る事故
サプレッションチェンバの耐震設計は新規制基準への適合性審査の中でも非常に大きな論点でした。原子力規制委員会(以下、NRA)に対しては当社の考えの妥当性を分かりやすく説明する必要があったため、説明の仕方にはかなり悩み、工夫しました。耐震設計を見直すためには設備の形状や材料特性などを踏まえて地震があった際の挙動をシミュレートして強度を評価する必要がありますが、評価にあたってはサプレッションチェンバそのものの強度を評価するだけでは不十分で、サプレッションチェンバの中に入っている最大5,470tもの水が地震によって偏った際の荷重や共振による影響を考慮する必要がありました。そこで電力中央研究所などと共同で縮小サイズの模型を製作し、そこに1,000ガル相当の揺れを加えて水の挙動を評価し、必要な工事の設計を行っていきました。
- 縮小模型による振動試験
- 解析による挙動検証
そうして得られた結果から設計された耐震補強は無事NRAに適合性を確認いただくことができ、次は現地に施工していく運びとなったのですが、サプレッションチェンバ内部に対して大規模な耐震補強工事を行うというのはこれまで経験のないもので、おそらくは世界で初めての試みだったと思います。サプレッションチェンバの内部は直径10mのトンネル形状で、外部からアクセスできるルートは直径1.5mしかない開口部がわずかに2カ所のみ。その狭い開口部から資機材を運び入れ、内部で足場を組み、大量の部材を設計通りに溶接していくには事前の確認と綿密な準備が不可欠でした。そこでプラントメーカーの協力を得て鋼材で製作したサプレッションチェンバの実物大模型を使用して工事の方法や期間などを詳細に検討し、また溶接作業専用の治具※も製作しました。更には実際に作業する溶接工の方に模型内で工事手順に習熟いただくなど、実際のプラントで安全かつスムーズな作業ができるような環境を整えることに留意しました。
※部材を正しい位置に固定するための補助工具

──工事を無事に終えた時はいかがでしたか。
何とも形容しがたい、すがすがしい達成感がありました。
振り返ってみれば沢山の苦労をしましたし対応中はプレッシャーも大きかったですが、最も辛かった時期に役員の方からいただいた「明けない夜はない」という力強いコメントにも励まされ、粘り強い対応を続けることができたと思っています。
──再稼働を迎えていかがですか。
私は入社が女川原子力発電所のメンテナンス業務で、当時の先輩方からのアドバイスもあって、発電所に対してはより一層の「マイプラント意識」を強く持って対応してきたこともあり、非常に感慨深いです。今後は女川2号機の再稼働で得られた知見を東通1号や女川3号の新規制基準適合性審査に向けた対応に生かしていくことになるため、これからも成長を楽しみながら仕事をしていきたいと思います。
土木建築部(土木建築業務) 橋本副部長 田村課長 岩舘主査
「考え方の違い」審査対応で直面した壁 防潮堤を巡る長い日々
- 土木建築部(土木建築業務) 橋本副部長
- 土木建築部(土木建築業務) 田村課長
- 土木建築部(土木建築業務) 岩舘主査
──防潮堤の審査対応というのは具体的にはどのような業務だったのですか。
防潮堤の構造や設計の安全性が高いことを原子力規制委員会(以下、NRA)に説明する業務です。説明方針の検討や資料の作成のほか、実際の説明対応も行いました。審査開始から認可までは4年以上を要し、説明資料は最終的に3,000ページほどになりました。(岩舘主査)
──防潮堤の建設着工は2013年5月で、審査開始よりも前ですね。
なるべく早期の再稼働を目指すため、基準地震動が決まる前から工事が始まりました。ある程度のリスクを取って工事は進めつつ、必要に応じて審査対応で得られた知見やアドバイスを基に設計変更を行える体制を取りました。(橋本副部長)
──NRAによる審査の中では、いくつかの設計変更が求められました。東北電力の考え方との間にはギャップがあったのでしょうか。
防潮堤を設計するうえでの「安全性」の考え方が、東北電力とNRAで少し違っていました。安全を前提としているのは両者とも同じですが、工期やコストの制約も考慮した東北電力に対して、NRAは他サイトにおける前例との整合性や外部への説明の明瞭さを意識していたように思います。例えば防潮堤の構造において、当初設計は工期の短縮や工事コストの低減にも積極的にチャレンジしており、防潮堤の一部区間で鋼管杭の下を土としていました。地震が発生した際、その区間は若干の沈下をしますが、沈下をしても必要な高さを確保できる設計としていたため、防潮堤全体としての安全性は十分確保できるという考え方です。しかし審査の席でNRAからは「すべての区間で沈下が起きないこと」を求められました。NRAとしては評価がシンプルに行えるよう、地震によって変化しない構造を求めたのだと思います。(橋本副部長)
──当初の設計から変更を求められたことについてはどのように受け止めていますか。
当初の設計でも東北電力としては必要な安全性を確保できていました。そのため例えば当初設計を貫いて「東北電力の考える安全性」をNRAに理解いただくという選択肢もありましたが、その場合審査にかかる期間は相当に長期化することが示唆されていたので、一刻も早い再稼働を目指す観点から設計変更に舵を切りました。(橋本副部長)
──逆に、東北電力の考え方が生きた部分はありますか。
防潮堤内には168本の鋼管式鉛直壁がありますが、それぞれの鉛直壁の間は止水機能を持つ素材で埋める必要があります。東北電力では先行サイトで使用実績のあるゴムを使用した構造のほか、一部箇所ではより安価に工事できるものの使用実績がないウレタンとシリコンによる構造を採用しました。そのため個別に水圧試験が必要となり、審査と並行しての対応に追われることになりましたが、その分工事に係るコストを低減できました。(田村課長)
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防潮堤のかさ上げ工事の完成を記念して関係者に配布した文鎮。
鋼管式鉛直壁の形状を模している
- 実際の防潮堤内部には168本の鋼管式鉛直壁が直立し、一列に並んでいる
──その他、審査対応の中で大変だったことはありますか。
目指す安全性は同じであるものの、細かい点で自分たちとは少し異なる考え方をする相手(NRA)に対して、納得いただける説明をすることに苦労しました。当社としては正しい説明をしているつもりでも、NRAにはうまく伝わらないこともあったように思います。(田村課長)
女川は被災サイトということで、地震・津波対策ではかなりシビアに審査をされたように感じます。審査対応の中で後から追加したものに漂流物防護工がありますが、これは防潮堤に係る加わる力(以下、荷重)について東北電力は「面」的な荷重を想定していた中、NRAの審査では「点」的な荷重に耐えることが求められ、結果として大きくなった設計荷重に耐えるために追加したものです。(岩舘主査)
「NRAへの説明のしやすさ」という点だけでみるなら、例えば想定津波の高さを2倍ぐらいにして防潮堤を設計すれば「大は小を兼ねる」で審査は通りやすくなったと思いますし、実際に先行して審査を受けていたサイトの中には想定津波高さが低いところもあって、それに近いことをやっていました。しかし女川の想定津波高さは23.1mと非常に高く、やみくもに裕度を持たせることはできませんでした。このあたりにも女川独特の難しさがありました。(橋本副部長)
──再稼働を迎えていかがですか。
女川は東北地方太平洋沖地震の震源に一番近いサイトでした。審査対応はこれまで携わってきた業務と比較して物量の多さはもとより質も格段に高いものでした。それでもNRAのコメント一つ一つに対して真摯に向き合って回答を続けたことが、再稼働という結果に繋がったものと思います。(岩舘主査)
新規制基準への適合性審査の話が社内でスタートしたのが2013年の8月ぐらいで、そこから審査対応を行い、そして2022年7月からは女川で現場の工事対応にも携わってきました。それだけに再稼働には非常に強い思い入れがあります。防潮堤が完成した時に私が撮った写真は後に「防潮堤カード」に採用されたのも良い思い出です。(田村課長)
色々なことがありました。一つ一つのタイミングは区切りではあるものの「次にやるべきこと」が見えていたこともあってその時々の細かな感情は覚えていないところもありますが、審査が終わった時にNRAの方から「東北電力は審査に真摯に対応した」とのコメントをいただいた時は嬉しかったですね。(橋本副部長)
- 防潮堤カード(表面)
- 防潮堤カード(裏面)
※本インタビューは2024年12月に実施しました。