
~福島・被災地の現状を知ること~
福島県は東日本大震災の地震・津波の被害だけでなく、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福一原発」)の事故に伴う原子力災害の影響も大きい複合災害の地です。福島支店では、あの日から今日までの記録と記憶を風化させないよう支援していく必要があると考え、被災地ツアーの開催について、以前実施した親子ツアーで協力関係にあった福島テレビに相談しました。
福島支店としては、福島県の復興・再生のためには、被災地に足を運ぶことが大切ではないかと考えています。一方、福島テレビでも、これまで被災地を取材し、福島県内に情報発信していくなかで、被災地を直接訪れて、見て、感じてほしいとの思いがあり、こうした両社の共通する思いが、浜通りの復興見学ツアーの開催に繋がりました。
今回のツアーは、被災地の復興の現状を見聞し、いま何が必要かを考えることで、被災地の復興支援とこれからの防災への意識向上につなげる内容です。一般の方を対象に募集した参加者は20名。小学生の兄弟とその母や、今年高校を卒業した娘と母、防災士の資格をもった方や医療従事者など、年齢や職種が異なるさまざまな方々が参加しました。
ツアーに同行したのは福島テレビの斎藤恭紀さん。福島のニュース番組「テレポートプラス」に出演する気象予報士です。とても勉強熱心で物知りな方で、出発直後から「今日は花粉の飛散に要注意です。花粉症は現代アレルギーのひとつです。日本の経済成長期に、たくさんの杉を植樹したことから始まったと言われています」と参加者に身近な話題を投げかけていました。そして14年前の三陸沖で発生した大地震があった日、雪が降るなどとても寒い日だったことを振り返りながら、震災時の教訓と地域の復興について一緒に考えていくツアーがスタートしました。
~東日本大震災の発生当時の状況を知る~
最初に訪れたのは「東日本大震災・原子力災害伝承館」です。地震や津波被害を受けて壊れたポストや、福一原発事故後の町の写真などが展示されており、当時の状況をリアルに感じることができます。また、現在にいたるまで長期化する原子力災害の影響と復興・再生に向けた取り組みが、被災地の住民が自身の体験や故郷への想いを語る動画などとあわせて紹介されています。
次に向かったのは「震災遺構 浪江町立請戸小学校」。日頃から避難訓練で防災意識を高めていたことで、津波警報前に避難を開始し、地震発生時に学校にいた2~6年生児童と先生の計93名全員が津波から無事に避難することができた奇跡の小学校です。校内を順に巡ることで、地震が発生した時にどのような行動をとるべきかの教訓を当時の行動から学ぶことができます。
さらに斎藤さんからは、「有事に備えて、家族で避難場所を決めておくことは大切ですが、ハザードマップだけに頼らずに常に万が一のことを想定しておくことも必要です」とアドバイスがありました。

東日本大震災・原子力災害伝承館で、副館長から原子力発電所事故発生時の説明を受ける参加者

避難指示が解除され、ようやく建物の建設が始まってきた町を見学

震災遺構となった請戸小学校の教室
~復興・再生に向けた被災地の取り組み①~
浪江町の復興のシンボルともなっている「道の駅なみえ」に立ち寄り食事をとった後、一行が向かったのは双葉町の「浅野撚糸(ねんし)※フタバスーパーゼロミル」。浅野撚糸は岐阜県に本社をもつ「糸」の会社です。2019年同社の浅野雅巳社長(福島大学卒)が双葉町を訪れた際、福一原発事故の影響もあり全町避難が続き、復興が全く進んでいない状況を目のあたりにし、地域再生に貢献したいという思いから双葉町に大規模撚糸工場を進出させました。敷地内は、特許技術を間近で見学できるほか、工場で作られた吸収力抜群の「エアーかおる」シリーズのタオルを扱うショップや、コーヒーとソフトクリームを提供するカフェが併設されています。参加者たちは、タオルに触れ、肌障りの良さを実感するとともに技術の高さに驚いていました。ここで生産された糸は、日本国内はもちろん、世界に向けて輸出されています。双葉町の復興のシンボルとして、多くの人が訪れることに地域住民からの期待は大きいです。
※撚糸(ねんし)・・・糸に撚(よ)りをかけること、撚りをかけた糸のこと。糸はそのままでは非常に細く、ばらばらになって扱いにくいので何本かの糸をねじり合わせて一本の糸にします。

撚糸工場のエントランスホールは光を取り込む明るい空間となっている
~復興・再生に向けた被災地の取り組み②~
ツアーの最後は、いわき市にある「ワンダーファーム」です。ここは、トマトの収穫体験ができる全国でも珍しいテーマパークです。福島県は震災以前から「農業王国」と呼ばれていましたが、福一原発事故の影響により、福島県内の農業を取り巻く情勢は厳しい状況です。ワンダーファームは先祖代々受け継がれてきた素晴らしい風景や、食文化と農業の活性化により、福島に元気を取り戻すために2013年に設立されました。「自分たちで作って、付加価値をつけて、売る」の6次産業化が注目されている中、ここではトマトの栽培方法を学び、トマト狩りをして食べる体験ができ、食育教育としても有効です。トマトが苦手な参加者からは「トマトが食べられた」と嬉しそうな声がハウス内に響きました。

収穫できる「フラガール」という品種は、市場にはほとんど出回らないそう
そのまま食べても皮が残らず、果肉がしっかりとしていて甘くておいしかったです
~ツアーを終えて~
各施設を巡るツアー中、斎藤さんは、「東日本大震災を教訓に今私たちに何ができるのか、どんなことをしておくべきか」を参加者に問いかけ、災害に備えたアドバイスを3つ伝えました。1つ目は「非常時用として、水は一人につき1日3リットルを3日分以上備えておくこと」。2つ目は「定期的に食べて買い足す『ローリングストック』という方法で、缶詰やフリーズドライの食料品を買い置きしておくこと」。3つ目は「防災訓練にはキャンプが有効である」ということです。近年、頻繁に災害が発生する日本では、このような有事の備えが必要不可欠です。
今回のツアー参加者からは、「震災以降、相双地区に行ったことがなかった。行きたいと思っていたので良い機会だった」、「参加者の中には、震災を経験していない子供たちもいる。私たちが伝えていかなければならないと改めて思った」、「被災地に行きたいと思っていても、意外と訪れる機会が少ない」などの感想が聞かれました。こうした意見を踏まえて、今後も福島支店では、福島県の復興・再生に向けて施策を検討していくこととしています。