女川再稼働から1年、所員8名が語る「変化と挑戦」(後編)

 東北電力の女川原子力発電所が再稼働してから1年が過ぎました。この1年を通じて、発電所員の業務やモチベーションにどのような変化が生まれているのか、BRIDGEでは所員8名にインタビューを行いました。後編となる今回は、ルールとコミュニケーションで発電所を守る4名の方々のお話を紹介します。

所内横断業務は「腕の見せ所」

 

 

技術統括部(技術)渡邉 靖礼 さん

【業務内容】

 渡邉さんいわく「技術系業務の『横串』的存在」。

 発電に影響するような故障やトラブルへの対応、あるいは外部への報告など、特に発電所全体としての対応が必要になった際に、その細かい対応内容や所内における役割分担、スケジュールなどを整理したり、取り決めたとおりに進捗しているかを確認する役割を果たしている。

 渡邉さんの担当は上記のほか、原子炉起動などに際してプラントの健全性を確認する「起動時健全性評価」や、所内で行われるさまざまな工事に係るリスク管理業務の改善、発電所のパフォーマンス状況を可視化するための指標の取りまとめなど。

 

──業務の魅力と、再稼働で起きた変化を教えてください。

 私が所属する技術統括部の技術グループは、万が一のトラブルの際、発電所で起きている事象を把握することと並行して、その後に起きうる展開を予想しながら、対応方針や関係する部署、自治体や国への連絡など、網羅的な事柄をスピーディーに想定して備える能力が求められます。時間的猶予はなくプレッシャーがかかる半面、いち担当者であっても所内を横断するような大きな課題を自分の手で整理し、所内の協力を得ながら発電所を安全に導くことに直接貢献できるやりがいがあります。

 再稼働を経て感じるのは、業務中の緊張感が一層強くなったことです。

 発電所の稼働中は、些細なトラブルが別のトラブルを呼びかねないので、発生した事態に対して、求められるスピード感が一層上がったと感じます。

 例えば非常用ディーゼル発電機などの設備は決められた台数を動作可能な状態で待機させておく必要がありますが、稼働中は必要となる台数が増えるため、1台の故障が与える影響が大きくなりました。

 発電所が稼働していることで緊張感の高い状況ではありますが、やりがいという意味ではポジティブに捉えていますし、再稼働という難局を乗り越えたおかげでグループの結束力は一段と高まり、所内を横断する複雑な事柄は「腕の見せ所」といった感じで、モチベーションは非常に高い状態にあります。

 

 またプライベートの面でいうと、再稼働前は運転に向けた準備で業務が非常に多かったのですが、運転後は通常どおりの業務量に戻ったので、時間の面で余裕ができ、家族サービスもできるようになりました。加えて、再稼働を通じて女川地域の認知度も上がったと思っていて、関東に住んでいる姉からは「テレビで見たよ、女川ってあんな所にあったんだね」と連絡をもらいました。「弟が仕事している場所ぐらい知っててくれよ」と思いましたが(笑)

──今後取り組んでいきたいことは何ですか。

 所内会議やプロセスの最適化、スリム化です。

 例えば、私の担当業務の1つに「起動時健全性評価」というものがあります。これは停止中の原子炉を起動するにあたり、数十ある確認項目を評価・確認し、原子炉起動などの最終判断を行う非常に重要なものです。実際の評価と確認は起動直前の所内会議を経て行われますが、万が一内容の不備や手戻りが発生すると、その後に予定されている原子炉の起動、臨界、発電機併入といったスケジュールが後ろ倒しになり、発電所内にとどまらず広範囲に影響を及ぼしてしまいます。

 私は昨年の再稼働の際、3回の原子炉起動対応を行いました。その対応の中で気づいたのは、起動時健全性評価の確認項目の中には、起動直前でなくても確認できるものがあることでした。そこで今年に原子炉を中間停止した際には、確認を行うタイミングを整理し、起動直前の会議をコンパクトにすることで、スケジュールが後ろ倒しになるリスクを小さくしました。

 今後も自分ができる範囲での改善を行い、計画どおりの稼動や安定運転につなげていきたいと考えています。

 

 

「当たり前を確実に」発電所の「何でも屋」として

 

 

総務部(総務)須藤 修平 さん

【業務内容】

 須藤さんいわく「所内の何でも屋」。

 傷病者が出た際の対応や、入構する人や車両の申請、労務や給与に関する業務や物品の購入などが主な業務。また、所員の通勤バスの運行や所内の清掃、港湾、浄化槽、発電所専用の水道の管理といった、発電所が外部に委託している各種業務における委託先との窓口も担当。

 

──総務業務の大変さと魅力、また業務で大事にしていることを教えてください。

 原子力発電所だからこその規制やルールがあり、それを順守することです。

 原子力発電所で傷病者が発生すると、怪我の手当てだけでなく、傷病者の発生場所によっては、傷口部における放射線量の測定や関係者への迅速な状況報告など多くの業務が発生します。また、発電所構内における救急車要請の際は、現場までの誘導や救急隊員へ傷病者の容態、応急処置結果の状況報告など、通常の事業所とは異なる対応も発生します。こういったことを手順どおり、迅速に対応・調整するのも総務の仕事です。

 そういった大変さがある一方で、事務系の職場でありながら、突発的な現場対応を通じて委託先や現場の方々と密にコミュニケーションを取り、共にさまざまな事態を乗り越えていく充実感が味わえるのが発電所総務の魅力だと思います。

 

 業務で大事にしているのは、当たり前のことを確実に行うこと、そして手早くできるものほど後回しにしないということです。イレギュラーな事態が発生すると待ったなしでさまざまな対応を行う必要があるので、そういった時に漏れや間違いを起こさないために、普段の業務を大事にしています。来客や作業などで来所される方などの入構申請は、万が一にも漏らしてしまうと、予定どおりの時刻に発電所へ入構することができずご迷惑をお掛けしてしまうため、入構申請を含めた手続きや申請関係は特に意識して対応にあたっています。

──再稼働を経て業務に起きた変化と、今後頑張りたいことを教えてください。

 再稼働の直前は工事の場所と時間がバッティングしてしまった委託企業同士の調整など、突発的な業務が多く発生し、また訓練や会議などで管理職の方が席にいない時間も多く、今思えば職場の空気は少し張り詰めていたように思います。今は過度な緊張感が少し和らぎ、相談や打ち合わせなどもやりやすくなったと感じています。

 また、安全対策工事中はさまざまな企業の方が発電所に出入りされていたため、必要な手続きや申請関係の業務を対応する際のコミュニケーションが楽しみの1つでもありました。今も特定重大事故等対処施設などの工事は続いていますが、当時に比べると発電所構内における協力企業の方の人数も減り、少し寂しいような気もします。

 総務グループが将来にわたって「所内の何でも屋」として活躍し続けるために、現在の業務を今よりも少ないリソースで行えるよう、効率化していきたいと思っています。例えば、発電所に入構する委託先からの提出書類は郵送で提出いただいているケースもありますが、業務内容によっては電子メールで提出いただくなど、小さなところから始めていきたいと思っています。

 

 

検査の高度化を目指して

 

 

品質保証部(検査)黒森 雄介 さん

【業務内容】

 使用前事業者検査や定期事業者検査といった各種の検査を実施する際の計画の立案や、発電所内の取りまとめが主な業務。具体的には、検査の対象となる設備や検査項目の検討に始まり、発電所内の各部署に対する検査箇所の割り振り、検査の手順を定めた「要領書」と呼ばれる書類の作成依頼など。

 また、原子力規制庁が原子力事業者を監督するために行う「原子力規制検査」などにおいて、原子力規制庁と情報のやり取りを行う窓口も検査グループの役割となっている。

 

──発電所の安定稼働のために心がけていること、再稼働を経て業務に起きた変化を教えてください。

 検査関係の業務における所内の取りまとめを担う部署として、不要な作業や手戻りを出さないように気をつけています。具体的には、自分が分からないことはそのままにしないこと、あるいはあいまいな記憶を頼りにせず、疑問に思った都度記録や文書を確認して仕事をするということを心がけています。

 

 

 また、検査は大規模なものだけではなく、日々の小さなトラブルで機器の修理や交換を行った場合でも必要となることがあります。そういった時でもなるべくスムーズに通常運転に戻れるよう、普段から各部との連携を密にするようにしています。

 

 再稼働を経て色々な変化がありましたが、一番大きなところでは時間的な余裕が生まれたことです。プライベートを充実させたり、区民祭りをはじめとする女川町のイベントに参加し、地域の方々とコミュニケーションを取ることもできるようになりました。

──再稼働へ向けた業務で大変だったことを教えてください。

 使用前事業者検査の内容を整理する表の作成を行ったことです。この表は約4,000ある機器について、それぞれに関連する技術基準、その内容を踏まえた検査項目や目標数値までが記載される膨大なものです。当然、品質保証部だけで作成できるものではないため、発電所内で説明会を開き、各部に協力を仰ぎながら作成しました。

 この表を作成する中で我々が特に腐心したのは、記載内容に統一感を持たせることです。同じ技術基準の条文を読んでも、それを満たすために必要な検査項目や検査内容は、読んだ人の知識や解釈に左右される部分があるため、どうしても記載内容に差が出てしまいます。これをそのままにしておくと、表全体で見た場合に矛盾や齟齬が発生してしまい、最悪の場合、原子力事業者としての適格性を問われる事態になりかねません。そうならないように、所内の各部とコミュニケーションを取りながら、記載内容や書きぶりを調整し、トーンを統一することに心を砕きました。

 原子力規制庁の方からは「東北電力は設備と技術基準、それに対する検査の方法の紐づけがとても分かりやすい」とおっしゃっていただき、とても嬉しかったです。

 

 そこで、これからは所内取りまとめ業務のDXをしたいと思っています。

 先ほど触れた検査内容を整理した表はチェック作業にかかる労力が膨大なので、入力ミスなどを効率よく発見できたり、表が更新された際に素早く差分が作れる機能などを持ったツールが作れたらと思っています。定型、定例的な業務についてはどんどん効率化を進めていき、発電所の万が一の際に即座に動ける体制を維持したいです。

 

 

「データ管理で訪問活動の最適化を」地域との関係を未来につなぐ

 

 

地域総合事務所 村上 太一 さん

【業務内容】

 主に地域住民への訪問活動を担当。村上さんが担当している地区は石巻市の山下地区と大街道地区で、そのほか石巻の企業や商工会へ原子力に関わるプレスリリースやお知らせの配布のほか、「川開き祭り」や「女川プラモ作戦」といったイベント業務も一部担当。

 そのほか所内の業務分担として、「こんにちは訪問」の事務局や、DXに関する業務も担当。

 

──地域対応の中で自分の成長を感じたことを教えてください。

 元々私は人見知りをするタイプで、地域総合事務所に来た当初は訪問対応に対する不安がありましたが、先輩や上司の訪問活動について回るうちに対応のポイントや会話の技術を覚え、今では訪問先の方々と信頼関係を築くことができるようになってきています。

 また、入社は電力センターのお客さまサービス課で、初めての異動で地域総合事務所に着任しましたが、原子力に関する基礎的な知識を習得するため、発電所の新入社員教育に18日間参加させていただきました。発電所の教育に地域総合事務所から参加するのは前例のないことで、運転員になるための基礎知識習得を目的とした教育内容についていくのは正直かなり大変でしたが、今ではプレスリリースの内容を自分の言葉で説明できるほどになり、成長を感じています。

──再稼働を経て業務に起きた変化はありますか。

 再稼働の前は一時的に訪問対応などが集中していましたが、稼働後は通常の対応に戻っているため、イベントの準備対応にも力を入れたり、業務の効率化などに目を向ける余裕が生まれています。

──発電所の安定稼働のために心がけていること、現在頑張っていることを教えてください。

 発電所が安定稼働していくためには、地域からの理解獲得や、信頼関係を維持、向上させ続けることが重要だと思っています。そのために訪問対話の中で大事だと考えているのは、トークスクリプトのように機械的、一方的な会話を展開するのではなく、相手のスタンスやその時々の状況に応じてアプローチを変えたり、時節的な事柄や雑談も交えながら対話することです。

 

 私は現在、私のような別部門からの異動であってもすぐに戦力になれるような環境づくりを進めています。

 地域総合事務所では地域の方々からいただいた声やお受けした要望といった重要な情報を、業務に生かすために蓄積して管理していますが、現在のエクセルをベースとした管理方法ではチームごとにデータが分かれていたり、マクロなどの専門的な知識が必要な部分もあり、データの十分な活用が難しい状況にあります。

 例えば、在宅の確率が高い時間に訪問したり、これまでいただいた声を踏まえた切り口で会話するなど、より効果的な訪問活動を行えるように、クラウドサービスを通じてこれまで蓄積した情報をデータベース化して、メンバーが定期的に入れ替わる中でもデータを活用しやすい環境を整えていきたいと考えています。

 

 

おわりに ~「あたりまえの日常」を未来へつないでいく~

 今回の特集でBRIDGEがフォーカスしたのは、再稼働という大きな波を乗り越え、女川原子力発電所が取り戻した「日常」でした。

 

 インタビューをする中で何度も耳にした言葉の1つが「緊張感」。

 プラントが稼働していることによって、1つ些細な事象やトラブルが次のトラブルを呼び、より大きな事象に進展してしまう。あるいは、1つのトラブルへの対処が終わる前に別なトラブルが起き、そのせいで本来できるはずだった素早い対応がとれず、対処が遅れてしまう。そういった「万が一」の範囲が広がり、小さなことにもいっそう気が抜けない。「稼働しているプラント」が持つ重みが、言葉の端々から感じられました。

 それと同時に、所員の皆さんのお話には、女川原子力発電所がBWRにおける再稼働一番手として国内の他事業者や他プラントをけん引していることや、かつて運転していた頃の知識や教訓を自分ごととして生かしていることなど、発電所に対して抱いている愛着や、高い誇りが感じられるエピソードも多くありました。

 

 また、家族と過ごしたり、地域のイベントに参加するといった時間もまた、14年という月日をかけて戻ってきた大切な「日常」であり、プレッシャーの多い業務に臨む所員の皆さんの大きな支えになるとともに、やりがいや使命感の再認識につながっていることも確認できました。

 

 そして、スキルアップや新しい手法、DXなどによって業務を高度化するという「自らの挑戦」を前向きに語る所員の皆さんからは、電気を生み出すことを通じて会社や東北・新潟地域に貢献しているという充実感と、発電所が取り戻した「あたりまえの日常」を大切に守り、未来へつないでいく、強い気持ちを感じました。

 

 

イイね!
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