BRIDGE探検隊 ~発電所の「セリ」栽培現場に潜入!~

 宮城県が全国1位の生産量を誇る春の七草の1つ、セリ。東北電力火力部では仙台火力発電所にある空き部屋を利用して、セリの養液栽培を行っています。なぜ火力部が野菜を栽培しているのか、そしてなぜセリなのか─。現地で聞いてきました!

発電所の空き部屋を活用した新規事業を模索

発電所内の一室に並ぶ、セリ栽培のためのラック

 宮城県の七ヶ浜町にある、東北電力の仙台火力発電所。LNG(液化天然ガス)を燃料とする、最大出力46.8万kWを誇る発電所です。現在ここで、火力部によるセリの栽培が行われています。

 取材班が案内されてやってきたのは発電所の中にある一室。「高温部品検査室」という、倉庫のような部屋です。

 ドアを開けると、そこには養液栽培※1を行うためのラックがあり、ラックの中では青々としたセリが育っていました。セリが根を張っているトレイには液体肥料が含まれた水が循環していて、その上にはセリの葉を照らすための照明が付いています。

※1:土を使わず、水と液体肥料で育てる方法

セリ栽培は「遊休地を活用した収益拡大策」の1つ

 セリを栽培することになった経緯について、火力部(火力企画)の寺田 健悟 さん(以下、寺田さん)に伺いました。

 「火力部では遊休地を活用した収益拡大策を検討しています。野菜栽培はその1つで、数年前に研究を始めました。当初はレタスやパクチーなど、様々なものを試しましたが、養液栽培は露地栽培※2と異なり、電気代などのコストがかかるため、それらの野菜では販売価格が低く、採算が取れないことが分かりました。そのような中、宮城県農業・園芸総合研究所などと情報交換を行い、より高値で販売することのできる野菜として目を付けたのが、セリです。現在は、LEDを利用したセリ生産技術の検討や、養液栽培システムの現地実証など、研究の一部を宮城県農業・園芸総合研究所へ委託し、室内でのセリ栽培の実用化に向けた取り組みを進めています」

※2:畑のような自然環境で育てる方法

 養液栽培のメリットとしては、一般的に成長速度が速いことや、季節に関係なく収穫できることなどが挙げられますが、セリの場合はどうなのでしょうか。「セリは養液栽培の前例がないので、まだ分からないことが多くあります。現在はLEDの波長や点灯時間、室温、培地である瓦チップの大きさなどを変化させ、収穫量や品質を安定させるためのポイントを探っているところです」と寺田さんは現在の状況を語ってくれました。

種類の異なるLED灯を使い、生育状況の違いを研究している

 

 寺田さんは育ったセリを見ながら「今回は思ったより『ランナー』が多く出てしまいました」と話します。

 「ランナー」とは、セリの根から横方向に繁殖する茎のことで、セリが繁殖する際の元となる、いわばセリの「種」。セリの栽培には必要不可欠である半面、ランナーを多く発生させたセリは可食部が硬くなり、味も落ちてしまうため、販売には向かなくなってしまうとのことでした。ランナーは気温が高くなると多く発生することが分かっているため、露地栽培では、ランナーを回収するためのセリを夏に育てています。養液栽培では通年での収穫を目指して、ランナーが発生する細かい条件を見極め、販売のための栽培とランナーを回収するための栽培を適切に使い分けることが求められています。

 

ラック内に生い茂るセリ。手前方向に伸びている茎が「ランナー」

 

収穫したセリの特徴と、研究のこれから

 こうして育ったセリは、一般のセリと何か違いがあるのでしょうか。

 寺田さんに聞いてみたところ、「東北大学青葉山キャンパスにある3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」で、養液栽培と露地栽培それぞれのセリにX線を照射して元素分析をしたところ、含有成分の違いが確認されました。また、X線CTを用いて根の組織構造を分析したところ、養液栽培したセリの根は露地栽培よりも中心部の組織が細く、またそこから広がる組織も細く点在していることが分かっています。この違いは茎や葉の生育、あるいは食感の違いにも関わってくるのではないかと考えています。今後も条件を変えながら測定し、商品としての付加価値を高められるような特長を発見できたらと思っています」と語ってくれました。

 

セリの根をCTスキャンした際の断面図。根の中心部の太さと、そこから根の外周部に伸びる組織の太さや間隔が露地栽培と養液栽培で異なっていることが分かる

 

 この研究が目指す事業の形や今後の展望について、寺田さんに伺いました。

 「当社が栽培して販売することで収益化するモデルと、あるいはこの研究で得られた一連のノウハウをパッケージとして提供するモデルの両方で考えています。仙台名物として近年有名な「セリ鍋」のように、セリは観光資源としての側面も持っているので、当社やセリ農家さんの収益向上だけでなく、新しいセリの登場による地域全体の盛り上げにもつながればと思っています。また、養液栽培で育成を行っただけではなく、ナノテラスを用いて露地栽培にはない特徴や付加価値を持つセリを開発し、PRをしていきたいと考えています」。

 

委託研究先が宮城県知事表彰を受賞

 セリ栽培の委託研究先である宮城県農業・園芸総合研究所に、研究成果や今後の期待について伺いました。

 

宮城県農業・園芸総合研究所 堀越 副主任研究員

 セリは「仙台セリ」や「河北セリ」といったブランドセリや「セリ鍋」ブームなども手伝い、付加価値の高い野菜として注目されています。しかし現在行われている露地栽培は12月の冷たい田んぼ(セリ田)の中に入って収穫をし、その後は泥を洗い流す必要があるなど、農家の負担が大きいため、後継者不足が深刻化しつつあるのが現状です。我々はそういったセリ栽培における課題を解決する手段の一つとして、この養液栽培に期待しています。

 さらにセリは、現在は鍋シーズンやお正月といった「冬の野菜」ですが、例えばサラダなどに使いたいという声もあり、暖かい季節の需要も期待できる野菜です。養液栽培によって通年で出荷することができれば、セリ農家の収益向上も期待できます。

 この研究は、ラックを用いた養液栽培によりセリの栽培方法を革新的に変えるものとして、宮城県知事からも表彰されました。今後も研究を進め、県内のセリ農家のために役立てていきたいと思っています。

 

村井宮城県知事から表彰状を受け取る様子

 

 

「時代に応じた役割を」火力部の思い

 この養液栽培の研究にかける思いを、火力部(火力企画)近藤 淳一 主査に伺いました。

 「火力部が研究するテーマは時代と共に、高効率な発電、電力システム改革への対応、カーボンニュートラルに向けた検討など、柔軟に変化してきました。そして現在は、全国的な流れとして火力発電所の廃止・休止が増える中、残った資産をどのように収益につなげていくかが新たな課題となっています。そういった意味で今回の研究は、『今の時代に火力発電所が求められていること』を研究しているという点で、これまでのテーマに通じるものだと考えています。これからも地域のために、時代に応じた役割を担っていきたいと思っています」と語ってくれました。

 

火力部(火力企画)近藤 淳一 主査

 

イイね!
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