
安全を創る ― 計画なくして安全なし
「安全は計画を立てなければ実現しない。しかも、数字などのエビデンスに基づく計画でなければならない」
講師の嘉嶋ユニットリーダーは、JR東日本の安全活動の根幹として、この考え方を紹介しました。
同社では、40年以上にわたり、5カ年ごとの安全計画を策定し、事故件数の推移やリスク分析といったデータを踏まえ、「達成すべき目標」「実施する施策」「必要な投資金額」を具体的に定め、時間をかけて取り組んできました。安全は短期間では結果が出るものではないため、長期的な視点で腰を据えて取り組みを継続していることが特徴です。
また、JR東日本では「事故」と「事象」を明確に分けて扱っています。鉄道運転事故、注意を要する事象、報告を要する事象、マイ・ヒャット(ヒヤリハット)といった分類を行うことで、重要度に応じた対応が可能になります。すべてを同じ重さで原因究明し再発防止策を積み上げていくと、ルールばかりが増え、結果として現場が疲弊するという課題についても懸念が示されました。

JR東日本における事故・事象の報告と分類
(図:JR東日本 グループ安全計画2028より引用)
情報なき本社、権限なき現場 ― ギャップを埋める努力
講演では「情報なき本社、権限なき現場」という言葉が紹介されました。
本社は現場の細かな実態をすべて把握することはできません。だからこそ、現場に足を運び、人を送り、現場がどのような条件で仕事をしているのか知ろうとする姿勢が必要になります。一方、現場は権限が限られる中で業務を行っています。その状況を本社が想像せずにルールや指示だけを出すと、実態とかけ離れた運用になりかねません。
そのため、
- 本社は「権限なき現場」の立場を想像しながら判断する
- 現場は「情報なき本社」がどこまで理解しているかを意識して発信する
という、お互いの立場を理解し合う姿勢が重要であるとされました。

現場把握・理解のためにも各層の三現主義の取り組みが重要
他社から学び、自分たちの活動に取り入れる
JR東日本では、他社の優れた取り組みを積極的に学び、自社の活動として取り入れています。「ご安全に」というあいさつは、住友金属工業(現在の日本製鉄)が日本で初めて導入し、現場だけではなく事務系社員も含め、全社で徹底されてきたものです。トップ自らが「どんなに生産繁忙でも、安全をないがしろにすることがあってはならない。生産の遅れは取り戻せても、人の命や体は取り戻せない」という言葉を繰り返し伝えてきました。JR東日本でもこの考えを取り入れ、活用しています。
また、医療分野からも学ぶべき事例が紹介されました。
倉敷中央病院の「タイムアウト」は、手術前に一呼吸置き、関係者全員で患者の氏名や手術部位などの確認を行う仕組みです。JR東日本でも作業の節目に立ち止まる取り組みとして導入しています。そして、浜松医科大学医学部附属病院では、手術後に「もっとうまくできた点」を振り返り、次につなげる活動を行っています。
この事例は、原因追及だけでなく、うまくいっていることに目を向け、それを伸ばすという考え方が安全を持続的に高めることにつながると紹介されました。

倉敷中央病院では手術前のタイムアウトで一呼吸置き、確認を実施
(写真:日本鉄道施設協会誌より引用)
誰が安全を高めるのか ― 人への働きかけ
安全確保において、ハード面での対策や設備投資は重要ですが、最終的に安全を高めるのは「人」です。
JR東日本では、一人ひとりが安全について考え、自律的に行動することを目的に「チャレンジセーフティ運動(CS運動)」を実施しています。また、安全のプロやキーパーソンという役割を作り、安全の核となる人材を育てることを重視しています。花安論文※の紹介では、トップが安全を本当に重視するなら、社内の優秀で注目を集める人材を安全担当に任命し、職務と権限を与えることが、強いメッセージになると語られました。
※花安論文:労働安全衛生に関するさまざまな研究に携わった花安 繁郎氏の学術論文
講演の終盤では、労働災害で息子を亡くした親御さんの言葉が紹介されました。
死亡事故は、当事者だけでなく、家族、仲間の人生、そして職場全体を大きく変えてしまうものであると触れられ、改めて安全の重みを認識する時間となりました。
東北電力安全保安管理室では、今後も、継続的に他社の安全活動を学び、当社の安全施策に取り入れる取り組みを進めていきます。


JR東日本のチャレンジセーフティ運動(CS運動)