■東北自然エネルギー■松川地熱発電所「IEEE マイルストーン」認定!

2026年、運転開始から60年を迎える東北自然エネルギーの松川地熱発電所がIEEEマイルストーンに認定されました。その価値を支えているのは、発電所を守り続けてきた先人たちと、現在運用に従事する東北自然エネルギーの社員たちです。 松川地熱発電所の歴史と、現場で働く社員たちの姿を紹介します。

運転60周年を迎える松川地熱発電所

 岩手県八幡平市に位置する松川地熱発電所(岩手県八幡平市)は、1966年10月に東化工株式会社(現 日本重化学工業株式会社)が運転を開始した、日本初・アジア初の商用地熱発電所です。最大出力は14,990kWで、一般世帯家庭の消費電力約32,000世帯分を供給しています。2003年の合併を経て、東北自然エネルギー株式会社(合併当時の会社名は東北水力地熱株式会社)が事業を行い、以降、運転開始から60年を迎える現在も安定運転を継続しています。

 

蒸気を上げる松川地熱発電所

 
 日本の地熱発電所は、ほとんどが東北地方と九州地方の火山帯に立地し、その中でも松川地熱発電所は蒸気だけが噴出する蒸気卓越型と呼ばれる、国内で唯一の地熱地域にあります。熱水も一緒に噴出する他地域では必要となる還元井が不要になるなど、より経済的な発電が可能となっています。
 

岩手山の麓に位置する松川地熱発電所

 

 

一般的な地熱発電所の模式図
地中深くにある地熱貯留層に生産井と呼ばれる井戸を掘り、地熱流体を噴出させ
気水分離器で蒸気と熱水に分離し、分離した蒸気でタービンを回して発電する
タービンで仕事を終えた蒸気は復水器で冷却され温水となり、
温水はさらに冷却塔で温度が下げられ冷却水として再利用される
気水分離器で分離した熱水は、還元井と呼ばれる井戸を通して再び地中深くに戻される

 

 

日本初から始まった地熱発電への挑戦

 松川地熱発電所を建設した1960年代当時は、地下深くにある蒸気を安定して取り出せるのか、地熱由来の蒸気に設備が耐えられるのかなど、解決すべき課題が数多くありました。

 1960年に調査井を掘削した際には、蒸気の噴出に成功したものの噴出量は十分ではなく、地下水の影響もあって継続的な利用は難しい状況でした。それでも調査を続け、1961年には深度571メートルの調査井を掘削し、翌1962年1月に噴気に成功しました。各種試験や地質調査の結果、さらに深く掘削することで発電に必要な蒸気を確保できるとの見通しが得られ、松川地熱発電所は1966年に誕生しました。

 
 

発電開始に当たっての通気式の様子(1966年9月29日)
運転開始当時の最大出力は23,500kWで、一般家庭約5万世帯分に相当する電力を供給していた

 

 運転開始後も設備の耐久性向上や発電効率の向上について試行錯誤を重ねました。運転開始から約3か月後の1967年1月には、タービンシュラウド※1の損傷事故が発生しました。修理後もローター羽根※2の折損などのトラブルが相次ぎ、約4年間で20回ほどの不具合が発生しました。

 原因究明の調査を重ねた結果、地熱発電所特有の、硫化水素が地熱水や地熱蒸気に含まれる環境が原因であることが判明しました。その後、ローターの材質や構造を見直したことで、設備の信頼性は大きく向上し、一連の経験は日本の地熱発電技術の発展に繋がっていきました。

1993年には蒸気タービンを更新した

 

■松川地熱発電所建設中の様子が記述されたBRIDGEはこちら(1964年11月号54ページ)

 

※1シュラウド:タービン動翼先端部に設けられる、リング状の部材。振動の抑制、ブレード強度の向上、タービンの効率と信頼性を高める役割を担う

※2ローター羽根:ローター(回転軸)に固定されている羽根

世界が認めた技術遺産 IEEEマイルストーン認定

 このような歴史的先駆性、長年の運転を通じて蓄積された技術的知見や、地熱発電技術の発展への貢献が評価され、2026年2月18日に松川地熱発電所はIEEEマイルストーンに認定されました。

 IEEEマイルストーンは、米国に本部を置く技術者組織IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)が、電気・電子技術分野において社会や産業の発展に大きく貢献した歴史的な技術業績を顕彰する制度です。1983年に創設され、電気・電子分野を中心に、コンピュータや通信など幅広い分野で人類に大きな影響を与えた技術が認定されています。

 

2026年9月3日に開催された銘板贈呈の様子
(左︓東北自然エネルギー 和田浩文社長、右︓IEEE 2020年会長 福田敏男氏)

 

 また、松川地熱発電所は2016年には日本機械学会の「機械遺産」に認定されているほか、運転開始日の10月8日が電気事業連合会などによって「地熱発電の日」として制定されています。日本の地熱発電の歴史とともに歩んできた松川地熱発電所の価値は国内にとどまらず、世界からも認められるものとなりました。

松川地熱を支える人々

 松川地熱発電所の価値を支えているのが、日々発電所の運営に携わる東北自然エネルギー雫石事業所の所員たちです。このたびのIEEEマイルストーンへの認定について、同発電所を担当する川村裕貴主査にお話を伺いました。

 

 

東北自然エネルギー雫石事業所 川村裕貴主査

──業務内容について教えてください。

 松川地熱発電所を安全かつ安定的に運転するための設備管理を行っています。日常点検や運転監視、発電設備や蒸気生産設備の保守・点検、定期検査の計画・実施のほか、トラブル発生時の対応をしています。

──業務で大切にしていることを教えてください。

 安全を最優先に考えています。発電所は多くの設備が連携して稼働しているため、一つひとつの作業を確実に行い、小さな異常も見逃さないよう心掛けています。また、設備の状態を正確に把握するため、現場確認に加えて、同僚や関係者とのコミュニケーションを積極的に行っています。

──松川地熱発電所に携わる魅力を教えてください。

 日本の地熱発電の歴史を築いてきた発電所で働けることに大きな誇りを感じています。再生可能エネルギーを通じて社会に貢献できること、自然豊かな環境の中で地域の一員として働けることも、松川地熱発電所ならではの魅力と感じています。

── IEEEマイルストーン認定は、松川地熱発電所にとってどのような意味を持ちますか?

 IEEEマイルストーンの認定過程では松川地熱発電所の技術的革新性と、再生可能エネルギー事業を通した社会的貢献の実績が評価されました。60年の間、様々な課題に対応し続けて運転してきたパイオニアとしての実績が認められ、大変光栄です。

──後世に残したい松川地熱発電所の価値について教えてください。

 日本初・アジア初の商用地熱発電所として、半世紀以上にわたり再生可能エネルギーを安定的に電力供給し続けてきた実績を引き継いでいきたいです。半世紀以上運転に従事してきた先人や、諸先輩からの技術は、後世に残したい大きな財産です。

 

次の世代へ受け継ぐためのリプレース工事

 運転開始から60年を迎える松川地熱発電所は、2022年から2025年にかけてリプレース工事が行われました。純国産の再生可能エネルギーである地熱資源を今後も長期に活用し、電力の安定供給とカーボンニュートラル達成に貢献していくため、老朽化対策を兼ねた設備設計の最適化を行いました。

 新規の発電設備の設計においては、既設発電所の技術や60年の運用実績を活用しながら、地熱発電所特有の硫化水素ガスに対する耐久性を備えた設備計画を心掛けました。

 さらに、発電所が国立公園内に位置していることから、自然公園法による各種規制への対応として発電棟の外観や高さの設計に配慮したほか、河川に挟まれた地形であるため、自然災害に強い構造設計にも注力しました。

 

手前から新冷却塔、新発電棟、旧冷却塔、旧発電棟

 

リプレース後の発電機および蒸気タービン

 

2025年10月29日に行われた通気式にてタービン起動操作をする和田社長

 

 東北自然エネルギーは、歴史的価値の保存のみならず、発電所として今後も価値を生み続ける挑戦を続けていきます。

 

▼松川地熱発電所を見に行こう!

松川地熱館|東北自然エネルギー株式会社

付録 松川地熱発電所の歴史

 

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