
今回の現場は舌崎発電所
岩手県二戸市にある舌崎発電所は、1923年(大正12年)6月に運転を開始した非常に歴史ある水力発電所で、最大出力は2,600kWです。
取材に伺った12月2日の水圧鉄管調査は、水槽から水車発電機に至る水圧鉄管の内部調査です。馬淵川(まべちがわ)の上流に位置する取水口から水槽に流れこんできた水は、この水圧鉄管を通って水車発電機を回し、その後、放水口から元の馬淵川に戻ります。

舌崎発電所
水圧鉄管は2本あり、いずれも長さが19.8m、直径が最大3.6mで、山肌にある水槽から麓にある発電所建屋に向かって伸びています。鉄管は主に鉄板で作られていて、今回のドローン点検では普段は水が流れているため確認できない鉄管内部を点検します。

暗所、屋内におけるドローン運用
朝9時、BRIDGE取材班は東日本テクノサーベイのドローンチームと一緒に水槽脇の駐車場に到着しました。この時の気温は約0℃。舌崎発電所は山の北側で陰になっているため太陽の光はあまり届かず、ドローンチームの3名は白い息を吐きながらドローン本体や周辺機材、パイロットが使用する椅子や机を車から降ろし、無線交信のヘッドセットなどを装着していきます。
(ドローンチームについてはこちら)ドローンが秘めた可能性 ~東日本テクノサーベイの強みとは~
- 東日本テクノサーベイ 今野 雄介 副長
今野雄介副長は機材を準備しながら、今回のロケーションについて説明します。「水力発電所は車でアクセスができない山奥などにあることも多く、そういった現場の点検作業は、まずドローン一式を背負っての登山から始まります。その点、舌崎発電所は車ですぐ近くまで来られるので、準備が非常にスムーズにできます」

今回点検する水圧鉄管は、前回点検したような水槽とは異なり、設備へ通じる大きな開口部を持たないため、ドローンが内部に進行するためには点検ハッチなどの開口部を確保する必要があります。
舌崎発電所の水槽は深さが約5.8mあり、ドローンチームが踏み進んでいく鉄板は、いわば水槽の「蓋」にあたるもの。今野副長はその隅にある点検ハッチを開け、現れた開口部にメジャーを当てながら、ドローン点検の難しさを説明します。「今回使用するドローン『ELIOS 3』の直径は人間の胴まわりよりも少し大きいので、開口部の大きさにはいつも注意しています。今回は通れるギリギリの大きさでしたが、場合によってはドローンを手で押し込んだり、本体を縦向きにして入れたりといった工夫が必要になります」
- 開口部の長さを測る今野副長
前回の水槽点検と異なるのは、点検対象が暗所かつ構造物内部という条件。したがって、点検に使用するデータの種類もやや異なります。前回は現場で撮影した画像から3Dデータを作成して点検しましたが、今回の点検対象である水圧鉄管の内部は暗く、点検に使用するための3Dデータを作れるだけの画像を撮影するのは困難です。したがって、今回の点検ではドローンのカメラを使用して鉄管内部の様子を映像に収め、それを点検に使用します。撮影は鉄管内部を上側と下側で半分ずつに分け、それぞれの壁面に沿って飛行しながら行います。
「ELIOS 3はLiDAR※を搭載しているので、暗所でも点群を取得して3Dデータを作成することが可能です。しかし、そのデータには色情報が付与されていないため、3Dデータのみでの点検作業に使用することは現状できません」。ドローンには多種多様な機能が搭載されており、点検や調査、測量といった飛行目的に応じて使用する機能が変わるだけでなく、必要とされる「飛び方」も変わってくると、今野副長が教えてくれました。
※Light Detection and Rangingの略。レーザー光を発射し、その光が物体に当たって反射して戻ってくるまでの時間を測定することで距離を測定する技術。
安全に注意しつつ、BRIDGE取材班がぽっかり空いた開口部から下をのぞくと、暗闇の奥にうっすらと水槽の底が見えますが、点検対象である水圧鉄管の入り口は見えません。ドローンはコントローラーからの電波によって飛行しますが、今回の水槽のように開口部が狭く、内部が入り組んでいる環境では奥まで電波が届く保証はありません。そこでドローンチームが持ち出したのは、長いケーブルでコントローラーと繋がれた専用のアンテナ。これを開口部から水槽内に吊るすことで、水槽内や水圧鉄管の奥まで電波が届くようになります。
- 開口部から見る水槽の底
- ドローン専用のアンテナ
プレッシャーと隣り合わせの現場で光る、プロの操縦技術
今回のパイロットは小板橋尚輝さん。

小板橋 尚輝 さん
合図の後に離陸したドローンは、通れるギリギリと思える大きさの開口部をいとも簡単に通過し、水槽の底へ消えていきます。東日本テクノサーベイの操縦技術が光る瞬間です。
- 舌崎発電所の水槽内を降下していくELIOS 3
小板橋さんの持つコントローラーの画面に目をやると、映っていたのは、ドローンに備えた4基の高出力ライトに照らされ、暗闇に浮かび上がった水圧鉄管の壁面。ドローンの動きに応じてリアルタイムに流れていく壁面の映像は、まるで肉眼で見ているような鮮明さです。小板橋さんの持つコントローラーの画面を隣で見つめているのは、サポート役の三浦里夢さん。数秒ごとに1%という早いペースで減っていくバッテリーの残量を確認し、時折小板橋さんに伝えています。
- コントローラーの画面に映し出される水圧鉄管内部の様子
- 現場で飛行のサポートを行う三浦さん(左)
今回使用しているドローン「ELIOS 3」は「暗い屋内」に特化したドローンとして万が一の接触に備えたフレームを持っているのが特徴ですが、その代償として重量に対してプロペラの径が小さく、また高出力なライトとLiDARの稼働も相まって、消費電力は大きめ。そのため、4,000mAhを超える大容量のバッテリーを搭載していても、安全に帰還するためのマージンなどを確保すると、点検飛行にあてられる時間はバッテリー1本あたりわずか6分ほどしかないのだそうです。
万が一ドローンのバッテリーが切れたら──水圧鉄管内部は急勾配で、運転停止中でもわずかに水が残っているため、墜落したドローンの回収は極めて困難で、点検期間への影響は甚大なものとなります。その意味でバッテリー残量はドローンのいわば「命綱」。さらに、今回のように操縦者よりも低い場所にドローンを進行させる場合、重力に従って降下する「行き」よりも、重力に逆らって上昇する「帰り」の方が電力を消費するため、飛行中のバッテリー残量の管理は一層シビアなのだそうです。
- 撮影を終え、光の中へ帰還する。メンバーの誰もが安堵する瞬間
操縦する小板橋さんに、飛行中に心がけていることについて尋ねると「もちろん安全に帰還させるのは大前提ですが、撮影漏れがないようにも気を付けています。現場では十分撮影したと思っても、事務所に帰ったら『ここをもっと詳しく撮っておけば…』と思うことがあります」と教えてくれました。
また、点検飛行の際のポイントについて伺うと「ドローンは人と違って壁面を触ることができないので、変状らしき個所が見られた際はなるべく近づいて詳細に撮影するようにしています」と説明してくれました。これは、事務所に帰ってからデータを確認する際に助けとなる記録付けの意味もあるのだそうです。
ドローンで撮影された映像はこちら!
ドローンの進化で、より安全に、より低コストに
今回の点検について、岩手発電技術センターの中山 大輔 安全主査と里舘 勝男 さんにお話を伺いました。

中山 大輔 安全主査(左)と里舘 勝男 さん(右)
──水圧鉄管調査の頻度を教えてください。
6年に1度実施しています。(里舘さん)
──ドローンの導入以前はどのように点検していたのでしょうか。
人が水槽の中に降りて行き、目視で点検を行っていました。水圧鉄管の内部は急勾配になっているため、ロープを使用したり、足場を組んだりして点検していましたが、それでも滑落や転倒といった労働災害のリスクがありました。今回のようなドローンを活用した水圧鉄管の点検は、これまでも試験的に実施しておりましたが、水圧鉄管の中まで電波が届かなかったり、あるいは暗くてカメラで状況が視認できなかったりしたため実運用には至っておりませんでした。ここ数年で技術が向上してきており、今回の現場では、実運用可能であると判断して採用したものです(中山安全主査)
──今回の点検状況を見ていかがですか。
ドローンやその運用体制を含め技術の進化を感じます。送られてくる映像も明るく鮮明で、人の目で見るのと遜色ないレベルだと思いました。より安全かつ低コスト、短期間に点検を行えるだけでなく、録画した映像を後から見返したり、ダブルチェックができたりといったメリットもありそうだと感じています。(里舘さん)

里舘さんが持つタブレット端末には、ドローンが撮影した映像がリアルタイムで送られてくる
次回はドローンチームの3名にフォーカスしてご紹介します。お楽しみに! |