
多種多様な会社での経験。東北電力は「進取の気性」がある会社
──土方カンパニー長は2014年に東北電力にいらっしゃるまで、ウエストパック銀行(オーストラリアの銀行)や三井海上火災保険、日立製作所など、数々の企業に在籍されていますね。
業種で言えば、銀行、証券、商社、保険、メーカーと数々の会社を経験してきました。事業形態で見ても、政府系、民間系、外資系、日系と多岐にわたる会社を見てきました。それぞれに経営の仕方、意思決定のプロセスのみならず、価値観さえも異なっていました。
伝統と格式を重んじる会社もあれば、その正反対に、徹底した効率化を実現している筋肉質の会社もありました。会社を変わるたびに全く違う価値観に遭遇し、面食らうことも多々ありましたが、振り返ってみると、どの会社で働いても無駄であったと思ったことはありません。それぞれの会社に、その会社独自の歴史があり、成功体験があり、そして経営陣の意思がありました。一見して無駄に思えるものも、実はその会社の中で長い間議論され、揉まれて、結果的に現在の姿にたどり着いたものであることが伝わってきました。そうしたことから、どの会社が良くて、どの会社が遅れているとは簡単に言えないと思います。
ただし世界は目まぐるしく変化していて、事業環境は絶え間なく変貌しています。そうした中で大切なことは、常に会社の中身を時代に合った姿にアップデートしていくことだと思います。

──2014年に電力業界へ転身した理由を教えてください。
電力業界に興味を持ったのは、まさにビジネスモデルが質的変貌を遂げるべき過程にあったからです。総括原価方式というこれまでのビジネスモデルから、自由競争、つまり市場化にシフトしなければならないタイミングを迎えていました。
こうした事業の価値観が180度変わるときには、会社の中ではいろいろなことが起きます。まさに会社を根幹から変えるという作業が必要で、その中でしかるべき道を探すことになります。それこそ新しい会社を一から作るぐらいの熱量が必要となるわけで、そのダイナミズムを経験できることは、やりがいのある仕事であるに違いない、と思いました。
また金融機関に勤めていた時の話ですが、ビックバンという金融自由化の波が日本を襲い、20数行あった銀行があっという間にわずか3行のメガバンクに再編成されました。こうした過程においては、平時では起こり得ない、想定だにしないことが起こります。こうしたことを経験した自分だからこそ見えるものがあり、その知見を発揮するには、電力業界がうってつけの“場”ではないかと思ったわけです。
──たくさんのご経験を踏まえて、東北電力にはどのような印象を持たれていますか。
大きな変革期を迎えている電力業界の中で、当社は新しい流れに対して、きわめて積極的な姿勢を見せています。域外進出についても、他社では自社の営業部隊を域外エリアに移すという戦略を採るなか、当社はそれぞれのエリアにおいて、有名で信頼のある会社とアライアンスを組み、その会社を通じて電気を販売するという戦略を採りました。不慣れなエリアで四苦八苦するより、そこのエリアに地盤をもつ会社と組んだ方が、うまくいくとの判断でした。その後、それを見た他社は、こぞって多くの新電力とアライアンスを組み始めました。
そればかりでなく、東北電力は業界初となる燃料と電力を組み合わせたトレーディング会社(東北電力エナジートレーディング)を設立しました。この会社は事業を始めて7年目になりますが、いまだに電力トレーディングの世界ではリーディングカンパニーであり、電力先物市場においてもジャイアントです。外資系も含め、いまだ他社からの追随を許していません。
東北電力は「保守的で極めて慎重に事を運ぶ会社」というイメージが強いと思いますが、このように、一方では先見性のある経営を行っているのです。いわゆる“進取の気性”がある会社だと言えるでしょう。

発電カンパニー長として、「よりそうnext+PLUS」を実現するために
──就任してからの所感や手ごたえはいかがですか。
この4月から発電カンパニー長ということで、燃料調達~火力発電~卸売~トレーディングと、相当幅の広い範囲をマネージすることになりました。経験のあるトレーディングについては土地勘がありますが、実際の発電事業については経験がなく、これからといった姿勢で取り組んでいます。しかしながら、私の周りにいる社員の皆さんがそこを実にうまく支えてくれていて、この会社の組織力を身をもって感じています。やはりどんな人でも、得手不得手があり、それぞれの得意な分野の人が集まってお互いをカバーしあうことで、組織としての大きな力が生まれてくるのだと思います。
そういった意味では、発電カンパニーは東北電力の良い伝統と、進取の気性という精神が、上手く混じり合った、類まれな組織ではないでしょうか。
──「よりそうnext+PLUS」では、電気・エネルギー事業は当社事業のコアと位置付けられました。どのように受け止めていますか。
未来永劫にわたり火力発電事業が会社のコアであるとは必ずしも言えませんが、当面の間は会社のコア事業であることは疑いようのないことだと思います。もちろん、それ以外の新しい事業分野に挑戦していくことは大切ですが、収益の根源は火力発電事業にあると考えています。
そういった意味で、今回「よりそうnext+PLUS」において、改めて発電事業の位置づけを再確認した意義は大きいと思います。しかし、だからと言って変化しなくて良いというわけではありません。需給最適化といった新しい戦略やトレーディングといった、これまで会社として経験したことがない分野に、果敢に挑戦し続ける必要があります。また、発電ポートフォリオも再構築する必要がありますし、燃料調達も柔軟で追従性の高い契約に変えていかなくてはなりません。同じところに留まっていては進歩がないわけで、私たちはそれを肝に銘じながら、慎重にかつ大胆に事業を進めていく必要があると思います。

執務室のデスクには燃料や電力価格などををチェックするためのモニターが並ぶ
──発電・卸売事業において、競争力の強化や収益の拡大のためにはどのような取り組みが重要でしょうか。また、それらにおいて東北電力の強みはどのようなところにありますか。
前にも述べたように、いま電力業界は大きな転換期を迎えています。他の会社が切磋琢磨しながら事業を運営している中で、当社も競争力を高めていかなければなりません。
では競争力とはなにか、ということですが、それは差別化です。他社がやっていないことをやる、誰も思いつかなかったことをやる、といったことです。新しい商品を開発したり、新事業に取り組んだりといったことも競争力を高めるひとつの手段ですが、新しい仕事のやり方や、実は会社の中の組織のあり方を変えることでさえ、大きな競争力を生み出すことがあります。
その典型のひとつが需給最適化です。需給最適化とは、燃料調達から発電、卸売、そしてトレーディングまでのバリューチェーンを一体化して、どういった燃料調達、発電パターン、あるいは市場取引を行えば収益が最大化できるのか、常に燃料や電力の市況、顧客動向、発電制約などを考慮しながら決定していく戦略です。しかしながら組織構成から言えば、これらに関係する部署は、燃料部、火力部、事業戦略部、東北電力エナジートレーディングなど、それぞれ独立した組織です。各部が、それぞれの思惑でもってバラバラで動いたのでは、需給最適化は到底実現しません。
そこで当社は、これらの独立した組織に横串を刺した「需給最適化会議」を開催し、その会議の中でその時々に考えられる最適な戦略を決定して、各部に指示しています。
こうした横断的な組織はどの会社においてもその必要性については叫ばれているものの、組織の壁が厚く、おいそれと実現するものではありません。仮にそれを避けて代わりに専門部署を設けたとしても、確実な実施のためには他の部門との調整が不可欠であり、やはり会社全体としてはうまく動けなくなる恐れがあります。
当社ではこうしたところをうまく切り抜けて差別化を実現し、大きな競争力を生んでいます。この巧みな運営ができるのは、ひとえに社風の良さによるものでしょう。この点は当社の強みとして、皆さんも自信を持っていただいて良いかと思います。

──脱炭素化の展望について教えてください。
脱炭素化の世界的な潮流は変わらないと思います。一昨年に起きたロシアのウクライナ侵攻による世界的な燃料市場の混乱などもあったことから、一部には見直しすべきではないか、と言う意見もあることは事実です。ですが海外の論調などを俯瞰すると、やはり脱炭素の方向に世界が向かって行くことには変わりはないものと考えています。“Slowly but Surely(遅いかもしれないが、確実に)”といったところでしょうか。
当社も「東北電力グループ“カーボンニュートラルチャレンジ2050”」を策定し、火力発電の脱炭素化を推進していきます。東新潟火力発電所1・2号機のリプレースはじめ、今後も休廃止やリプレースを実施し、火力電源の高効率化、環境負荷低減を進めます。また、水素、アンモニアやブラックペレットなどの混焼の検討や実証を行いながら、脱炭素燃料の導入に向けた体制を整えていきます。
社員へのメッセージ
ダーウィンが放った言葉に、「最も強い者が生き残るのではない、最も賢い者が生き残るのでもない。生き残れるのは、もっとも(変化に)適応した者だけである」という有名な名言があります。私たちの事業もまさにこの通りだと思います。
事業環境が大きく変わる中で、ただ過去を懐かしむのではなく、新しい環境を受け入れてそれに適応していく、これこそが競争に生き残れる唯一の戦略なのです。
これまで述べてきたように、当社は当社にしかできない戦略を着々と実現しています。中から見ても分かりにくい部分もあるかもしれませんが、いまだに他社が追い付いていない競争力も身に着け始めています。繰り返しになりますが、こうした進取の気性という精神と、これまで当社が培ってきた良い伝統をうまくバランスさせて、時代の変化に適応していきましょう。これこそがBest Strategyなのです。
