
国際会議における論文発表
2025年9月5日から7日、ニュージーランド・オークランド市にて開催された「国際大電力会議」(以下、CIGRE)のアジアオセアニア地域会議テクニカルミーティング(AORCミーティング)において、仙台電力センター送電課の4年目社員・尾留川万季さんがオンラインで発表を行いました。
(参考:2023年に仙台で開催されたCIGRE)架空送電線分野の国際会議 「CIGRE2023仙台大会」を開催しました|東北電力社内報 デジタルBRIDGE (tohoku-epco.co.jp)
今回発表した論文は『Transmission Line Routing in Mountainous Areas Based on Geomorphological Risk(地形による災害リスクに基づく山間地の送電線ルート選定について)』というもの。尾留川さんが学生の頃に専攻していた地質に関する知見を送電線のルート選定に応用するための基礎検討であり、自身の専門分野を業務に生かした内容となっています。
オンラインで発表する尾留川さん

発表画面
発表を終えて
発表を行った尾留川さんにお話を伺いました。

仙台電力センター送電課 尾留川 万季 さん
──今回発表した論文の内容はどのようなものですか。
「0次谷(ぜろじたに)」と呼ばれる地形がもたらす表層崩壊※の危険性に着目した、送電線のルート設計に関する考察です。鉄塔に関する土砂災害は表層崩壊が多数を占めると言われていますが、その起点となりうる0次谷を地図上で効率よく発見し、さらにその危険度について個別判定することで、より表層崩壊のリスクが少ないルート選定を目指そうとするものです。
※土砂崩れ、地すべりの一種。山の表面の土が崩落すること
──今回の研究テーマを選んだきっかけを教えてください。
丸森町の送電線を巡視していた際に、ある鉄塔の足元に表層崩壊を発見したことです。レーザー測量の結果などを用いて周辺の詳細な地形を調べたところ、2019年の台風の被害と思われる表層崩壊が周囲でもいくつか起きていて、さらにその多くが0次谷で起きていることが分かりました。これを応用して将来的な災害リスクの回避に生かせたら、と考えて今回の論文テーマに選びました。
──0次谷というのはどのような谷ですか。
等高線が「V字」の形で山側へ入り込んでいる箇所を谷といいますが、そのうち「間口の幅」よりも短い「奥行き」を持つ谷を0次谷といいます。奥行きの方が長くなると1次谷といいますが、0次谷は尾根側にあってまだ完全な谷あるいは渓流になる途中の段階でよく見られる地形で、雨水を集めやすいという特徴を持っています。また表層の土層が厚いため、土砂崩れ(表層崩壊)の起点となることが知られています。表層崩壊になりやすい地形は0次谷以外にもありますが、今回は0次谷が該当しました。

0次谷、1次谷の説明
──CIGREで発表することになった経緯を教えてください。
今回発表した論文は、もともとはCIGRE向けに作成したものではありません。社内教育の一環として、送電部門の入社3年目社員を対象にした「送電部門業務論文」として作成したものです。2023年に開催されたCIGRE仙台大会終了後に行われた、送電部門の若手社員座談会の中で業務論文の話題になった際、先輩から「論文の内容によってはCIGREでも発表できるのではないか」という助言をいただきました。私は大学院時代に英語で論文発表をした経験があり、東北電力ネットワークの社員となった今は、海外で発生する土砂災害の発生状況と鉄塔への影響などにも関心を持っていました。こうした背景から、前例のない挑戦ではありましたが、多くの方々のご協力を得て、国際会議での発表が実現しました。
(関連記事)「CIGRE2023仙台大会の企画・運営」の社長賞受賞を受け、送電若手技術者座談会を実施!|東北電力社内報 デジタルBRIDGE (tohoku-epco.co.jp)
──発表へ向けてどのような準備を行いましたか。
CIGREでの発表は全て英語で行われるため、スムーズに対応できるよう入念な練習を重ねました。電力センターや送変電建設センターの皆さまに協力いただき、多くの人の前で模擬発表を行い、実戦的な経験を積みました。
また質疑応答も英語でする必要がありますが、普段の生活ではなかなか英語を話す機会がないので、音声で会話できるタイプの生成AIに予め発表内容の概要を伝え、想定される質問を出してもらってそれに私が答える、というトレーニングを繰り返しました。このトレーニングにより、実際の質疑応答にも自信をもって臨むことができました。

──発表を終えていかがですか。
本番では、事前に想定していた質問とは異なり、「地震への応用」や「日本と異なる地質に対する適用性」など、幅広い視点からの質問がありました。こうした予想外の質問にも、送変電建設センターに準備いただいた音声の即時文字起こしツールの助けを借りて、スムーズに答えることができました。
今回の発表を通じて強く感じたのは、私の「挑戦したい」という思いに対して電力システム部、送変電建設センター、宮城支社、そして職場の皆さんなど、多くの方々が協力し、応援してくださったことです。そのおかげで十分な準備を整え、自信を持って臨むことができました。自分が置かれている環境のありがたさを改めて実感できたことは、大きな収穫でした。
──今後やってみたいことはありますか。
まずは現在の担当業務である鉄塔建設工事や伐採などの施工管理業務をしっかりとこなせるようになることが第一です。さらに、女性の後輩ができるように、業務の魅力を発信したり、働きやすい職場づくりを推進したりする取り組みにも力を入れたいと考えています。これからも様々なことに好奇心をもって挑戦していきたいと思います。

送電部門におけるエンゲージメント向上に向けた取組み
送電部門では、社員一人ひとりが働きがい・やりがいを感じ、働きやすい環境の中で自身の能力を最大限に発揮できるよう、エンゲージメントの向上に力を入れて取り組んでいます。入社数年目の若手社員がCIGREのような国際会議で発表する機会は通常なかなかありませんが、今回は尾留川さんの強い希望と熱意を受け、送変電建設センターをはじめとするCIGRE SCB2国内分科会事務局の協力のもと、発表が実現しました。
若手社員が挑戦できる環境を整え、組織全体でその実現を支援することは、社員の成長意欲を引き出し、会社全体の活力につながる重要な取り組みです。送電部門では今後も、若手社員が「挑戦したい」と思ったことを汲み取り、それを実現するための環境整備や支援を継続していくことで、社員のエンゲージメント向上をさらに推進していくこととしています。