運開目前!現在のナノテラスの様子をお伝えします

 来年度に運用開始が迫ったナノテラス。その意義について改めて振り返りつつ、現在の状況についてお伝えします。

次世代放射光施設、NanoTerasu(ナノテラス)についておさらい

 放射光施設とは、光速近くまで加速された電子の軌道を磁力で曲げたときに発生する極めて明るい光(=放射光)を利用して、あらゆる物質を原子レベルで観察することができる、いわば「巨大な顕微鏡」のようなものです。物質の状態をナノメートルレベル(10億分の1メートル)で分析することで、航空機や自動車などに幅広く利用される炭素繊維や、燃料電池、電子部品、創薬、バイオなど、さまざまな分野での活用が見込まれています。

 世界には約50カ所の放射光施設があり、国内では、物質の構造解析を得意とする“硬X線領域”で世界トップクラスの性能を誇る「SPring-8(スプリングエイト)」(兵庫県佐用町)をはじめ、9つの放射光施設が稼働しています。一方で、物質中の化学結合、電子の状態や性質・機能の起源を調べることに強みがあり産業利用ニーズが高い“軟X線領域”においては、日本は世界に大きく後れをとっていました。

 東北大学青葉山新キャンパスに整備中の次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」は、既存国内施設の約100倍の輝度で軟X線を発生させることができ、世界最高レベルの高輝度放射光施設として、国内外から大きな期待を集めています。宮城県内のみならず東北地域が先進的な研究開発拠点として認知され、研究者・研究施設等が集積することで、最先端のものづくりの拠点となり、地域の産業構造の高度化に貢献することが期待されています。

 

ナノテラス鳥瞰(一般財団法人光科学イノベーションセンター提供)

 

 「ナノテラス」という名前には、「物質のナノの世界を明るく照らす光」という意味とともに、「世の中を照らす日本神話の天照大神のように、この施設で得られた知見や成果が世界に豊かな実りをもたらしてほしい」という願いも込められています。

 なお、当社はコアリション(有志連合)※の一員であるほか、2020年には「官民地域パートナーシップ」における地域側の代表機関である(一財)光科学イノベーションセンター(PhoSIC)に対して6億円の寄付を行っています。

プレス:https://www.tohoku-epco.co.jp/pastnews/normal/1205177_1049.html

 

※コアリション:

ナノテラスは「官民地域パートナーシップ」という新しい仕組みによって、国と民間が費用を分担して整備・運用を行っている。民間・地域パートナー側の財源となるのが「コアリション」(有志連合)という産学連携の新たな仕組みであり、企業は1口5,500万円の加入金を拠出してコアリションメンバーになることで、ビームラインを利用した実験を行うことが可能となるとともに、学術界の研究者から実験やデータ分析などのサポートを受けられる。

2024年4月の運用開始に向けて、現在のナノテラスは

 今回デジタルBRIDGE取材班は、2024年度の運用開始へ向け準備を進めるナノテラスの状況を取材する機会を得ました。現地ではPhoSICの中村哲也ビームライン部長に丁寧な解説をしていただきました。

 

PhoSIC中村 哲也 ビームライン部長

 

 ナノテラスの主な設備には大きく、「線型加速器」「円型加速器」「ビームライン」があります。

 電子銃から発射された電子は、「線型加速器」で光速近くまで加速され、光を帯びます。その後、「円型加速器」に進み、ほぼ光速のまま円型加速器内を電磁石の磁力で曲げられながらぐるぐると周回します。円型加速器を周回する途中に永久磁石で電子を細かく蛇行させる装置によって電子から光だけを引き剥がして、放射光を発生させます。発生した放射光を「ビームライン」に導き、ビームの広がりを抑えたり実験に必要な波長だけを取り出すなどした上で、実験装置内の試料に当て、試料による放射光の吸収量や試料表面で発生する電子や蛍光を観測して試料の性質に関する情報を得ます。

 

ナノテラス平面図。各ビームラインは円型加速器に対して接線方向に設置されている

 

 ナノテラスの円型加速器は周囲の長さが349m。これだけ聞くと巨大な施設と思われるかもしれませんが、スプリングエイトでは周長が4倍以上(1,436m)もあることを考慮すると、性能に対して非常にコンパクトに作られた施設であることが分かります。

 その円型加速器から建屋外周部までの間が吹き抜けの実験ホールとなっており、ビームラインはこの実験ホール内に配置されています。この実験ホールにも工夫があり、従来の施設では全域が放射線管理区域でしたが、ナノテラスの実験ホール内は大部分が放射線管理区域の適用外となっており、日本で初めて利用者の負担軽減が図られています。(実際、記者も特段の手続き等なく自由に出入りできました)

 

 なお、ナノテラスでは最大で28本のビームラインが設置できるように設計されており、現在はそのうち国が整備する3本(主に学術用に使用)とコアリションが整備する7本(主に産業用に使用)のあわせて10本のビームラインを整備中です。国が整備するビームラインは実験の成果を公開する必要があることから、一般企業における研究や製品開発などの用途では使用しづらく、産業利用においては成果を公開する必要がないコアリションのビームラインが大きな役割を果たします。

 中村部長に案内されてとあるビームラインへ向かうと、そこには磁石の変化を測定した映像が流れていました。これは永久磁石のN極・S極が逆向きの強い磁界を受けた場合にNSが逆転する現象(「磁化反転」という)についてナノ~マイクロメートルレベルで観察したものです。磁極の逆転が部分的に発生していく様子を記録しており、強力な磁石の開発などに役立つそうです。これだけ強い磁界を作り、かつ高輝度の放射光を用いて観察ができる環境は世界唯一とのことでした。

 現在は放射光が想定どおり利用できるよう様々な調整作業などを日々行っているとのことで、施設のあちこちで準備がすすめられており、運用開始が迫ってきていることがよく分かりました。

 

 

当社がナノテラスに期待すること

 当社とナノテラスについて、研究開発センター(研究企画)の穂積副長にお聞きしました。

 

研究開発センター(研究企画)穂積副長

 

──現在、ナノテラスとはどのような接点がありますか?

 12月7日に開催した研究開発報告会の特別講演として、PhoSICのシニアマネージャー・部長の庄司雄一様より、ナノテラスについてご紹介いただきました。

 また、同日、ナノテラスではファーストビーム※の観測に成功したとのことで、利用開始に向けた最終段階に入っていると伺っております。

 研究開発センターでは、ナノテラスの現地見学会や利用方法の説明会などに参加し、当社が円滑にナノテラスを活用できるように進めております。

※円型加速器内に設置された挿入光源からの放射光X線を実験ホールに初めて導入し、観測すること

 

──ナノテラスが運用開始を迎えるにあたって、当社としての受け止めを教えてください。

 ナノテラスを核とした産学連携による産業集積、ひいては東北・新潟地域の経済発展に資するものであることから、当社はコアリションメンバーとなっており、年間400時間の施設利用権(10年間)を保有しております。

 ナノテラスが立地する東北大学の青葉山新キャンパスでは、サイエンスパーク構想も進行しており、産学官が結集して、大学とともに社会価値創造を行う共創の場を整備され、ナノテラスを活用した地域企業との共同研究の展開、データ解析分野等のベンチャー創出などが期待されています。

 また、仙台市が進める「せんだい都心再構築プロジェクト」の第1号物件として、「アーバンネット仙台中央ビル」が竣工しました。ここでは、ナノテラスと連携し、補完施設や機能を設け、利用者の快適な業務のサポートが行われるとのことです。

 ナノテラスを起点に、新たな企業の進出や産業の創出など、日本の力が東北の地に結集し地域経済が活性化されます。

 また、今まで見えにくかった小さな世界をナノテラスという「大きな顕微鏡」で観測できることにより、新しい発見が生まれ、世界レベルのイノベーションが起きると確信しております。

 

──当社においては、どのようにナノテラスを活用していく予定ですか?

 まず研究開発センターにおいては、CO2分離回収時の結合状態の観察,アンモニア分解水素製造時の触媒表面の観察,コンバインドサイクル火力で水素を混焼したときの高温部材の劣化評価,リチウム電池および高温水蒸気電解水素製造関連にナノテラスを活用した研究ニーズがあります。

 また、火力部では火力構造材の経年劣化・損傷調査関連、原子力部では先進的機能物質の電子物性研究についてナノテラス活用を検討しているほか、幅広い分野において活用が期待できることから当社およびグループ企業で更なる活用を検討しております。

 

──ナノテラスに関する研究開発センターの役割やミッションを教えてください。

 研究開発センターは、研究開発に関する当社担当窓口として、ナノテラスについて東北電力グループ全体を先導することがミッションだと考えております。そのためにも、2024年度の早い時期にナノテラスで実測定を行い、ナノテラスに関する使用方法や手続き、技能・ノウハウを蓄積して社内関係室部や関係会社へフィードバックするなど、ナノテラスに関する研究や測定を支援していきます。

 

──ありがとうございました。

イイね!
ページトップへ戻る