
■キラリ☆企業グループ社員にフォーカス■空から地域を楽しむ! ~Vol.14 東北緑化環境保全 富樫 岳さん~
東北電力グループでは、従業員一人ひとりが個性を生かしさまざまな分野で活躍しています。そんな皆さんのキラリと光る活躍や多彩な活動などにフォーカスする本コーナー。第14回は、山形県南陽市を中心にパラグライダーで「クラウドサウナ」を楽しんでいる東北緑化環境保全の富樫 岳さんに、パラグライダーの魅力や地域への思いなどについて伺いました。
上昇気流にのって地上3,000メートルの世界へ。雲の合間から見える絶景
大学時代からパラグライダーをされている富樫さん。これまでの功績や現在の活動をご紹介します!

☆東北緑化環境保全 富樫 岳さん☆
・現職場 本社事業本部測定分析部(業務G)
・出 身 宮城県仙台市
───パラグライダーを始めたきっかけを教えてください。
山形大学に入学してすぐ、大学でパラグライダー部の看板を見かけて入部したのがきっかけです。元々空や飛行機に憧れがあってパラグライダー自体はもちろん知ってはいたんですけど、部活動という形でやっているのは知りませんでした。
パラグライダーで飛ぶには、インストラクター指導の元で段階的な技能証取得が必要です。パラグライダー部は、そのスクールに一緒に通う仲間たちという位置付けです。私は在学中にパイロット技能証※を取得しましたが、そのとき通ったスクールが山形県南陽市の南陽スカイパークを活動拠点にしていて、地元仙台に移った現在も私の活動の拠点になっています。
※飛行に必要な技術を一通り身に着けたことを示す技能証。自動車でいう普通免許にあたる

───南陽市はパラグライダーの適地なのでしょうか。
そうですね。パラグライダーの飛行に適したエリアは各道府県に概ね数カ所ありますが、南陽スカイパークは離陸場所・着陸場所共に障害物の少ない開けた地形で初級者でも楽しみやすく、全国的にも恵まれた環境が整っていると思います。

────フライトには気象条件も重要だと思いますが、どのようことに気を付けていますか。
パラグライディングは気象条件に全てを左右されるスポーツで、飛ぶためには天気が良いことはもちろん、風の強さ・風向きといった条件も揃う必要があります。
注意すべきは積乱雲が急発達したり、風が強くなったりといった「飛べるけれど悪条件が隣り合わせ」の場合です。ただそういった変化は事前にある程度予測できるので、気象予想の段階で空の様子や周囲の観測データから危険予知をして、リスクを見落とさないように気を付けています。
私は暇さえあれば常に天気図や気象予想モデルの最新情報をチェックしていて、週末や条件の良さそうな平日を大体1週間程度先まで予想してフライトの計画を立てています。とはいえ予報が急変することもありますし、さらに山形は奥羽山脈の向こう側ですから、仙台市にいながら正確に予測するのは至難の業です。かといって確証が得られてから出発したのでは「美味しい」時間帯に間に合いませんので、自分の予想に賭けて朝から南陽に向かうわけです。
───フライト当日はどのようなスケジュールで臨むのでしょうか。
朝の6時半とかに仙台を出発して、だいたい2時間半かけてスクールのクラブハウスに向かいます。そこで、その日フライトする人たちと気象条件や注意点などについて情報交換をします。私もスクールのOBとして参加し、必要に応じてアドバイスなどをします。
その後は近くにある南陽スカイパークの離陸エリア(山頂)に移動し、道具を準備しつつ、天気や風の様子、上昇気流の見込みを予想しながら10時から11時半くらいに離陸することが多いです。飛行時間は短ければ5分から、長くて数時間飛び続けることもあります。
───どうやって長時間飛び続けるのですか。
上昇気流に乗って高度を稼ぐ「ソアリング」という技術を使います。
前提として、パラグライディングは端的に言えば「前に進みながらの降下」なので、進むにつれ自然と高度が下がっていきます。南陽の場合は離陸地点から着陸地点の高度差が300mですので、飛んで降りるだけだとおおよそ5~10分で飛行が終了します。
しかし上手にソアリングをすることができれば高度を上げることができ、飛行時間も30分、1時間、2時間と延びてゆきます。条件次第では日没まで飛び続けることも可能で、私の最長記録は6時間です。
- 翼はレインウェアのようなさらさらした生地と化学繊維が組み合わさったもの。写真は翼の端だけ開いたところ。全て展開すると12m×2.3mほどの大きさ
- 飛行に必要な一式は専用のリュックに収まる。重さは15kgほど
───上昇気流はどのように見つけているのですか。
我々の言う上昇気流とは「日射により暖められて周囲より軽くなった空気の塊」です。
空気が上がっていく姿は目には見えないので、「上昇気流が発生している」サインを見つける必要があります。一番わかりやすいのは鳶(トンビ)です。鳶のような猛禽類は我々と同じく上昇気流を使うので、彼らの動きから上昇気流の場所・大きさ・強さが分かります。他には木の葉の揺れ、風の向きの変化、雲の発生、あるいは匂いもヒントになります。
───「クロスカントリーフライト」とその魅力について教えてください。
ソアリングで稼いだ高度を使って遠くへ飛んでいくことを「クロスカントリーフライト」といい、その魅力はひと言でいうと「スケール感」です。
私はオープンワールドゲーム※が好きなのですが、それと似たロマンを感じます。例えば母校のキャンパスがある米沢市とか、蔵王のお釜とか、「遠くに見える景色」だったその場所に到達できたときの達成感は何物にも代えがたいです。条件の良い日なら数十キロ先を目指すこともあり、国内記録では筑波から仙台へ約230kmも飛んだ人がいます。
遠くへ行くためには上昇気流を何度も捕まえる必要があり、また着陸地点に恵まれるとは限らないので、気象や上昇気流の理解はもちろん、正確無比な着陸技術が求められます。トライできる気象条件は限られますが、チャレンジし甲斐のある取り組みです。
※マップに隔たりのない広大な仮想世界を舞台に、プレイヤーが自由に探索することを主眼とするビデオゲーム
- 行くことができるのは「見える場所の全て」
───上昇気流にのって雲をかすめることを「クラウドサウナ」と呼ばれていますね。これは富樫さんの命名ですか。
そうです。
ある日、サウナ好きなフライトメンバーでスチームサウナに入り、湯気で辺りが真っ白になったときに「これ雲の中と同じだよな(笑)」と話したんです。その時に「クラウドサウナ」という言葉がひらめいて、雲をかすめるパラグライディングを指す言葉として仲間内で使い始めました。

───YouTubeチャンネルでの活動もされていますが、これはどのような思いで始められたのでしょうか。
元々動画編集を少しかじっていたこともあって、「トップガン」とか「エースコンバット」とか、戦闘機や空の世界を題材にした作品のパロディを作りたいという思いがあったのですが、当初は動画映えするようなフライト映像がなかったこともあって、シンプルな動画の公開にとどまっていました。
その後クロスカントリーフライトに挑戦し始めて、いい映像も撮れるようになったので、編集にも凝り、チャンネル名を「南陽クラウドサウナ部」として活動を本格化しました。
南陽は初級者にやさしい反面、上昇気流の発生率といった条件は少々不利なエリアで、クロスカントリー界隈では「渋い」と言われがちです。だからこそ「南陽でもこんなフライトができるんだ」という実績を発信することで、界隈へのアピールはもちろん、パラグライディングを知らない人にもソアリングやクロスカントリーフライトの世界を知るきっかけになってもらえたらという思いがあります。

富樫さんが運営するYouTubeチャンネル「南陽クラウドサウナ部」
───蔵王の「お釜」への飛行を目標にしたのはなぜですか。
南陽でクロスカントリーフライトが盛り上がってお互い技術を磨きながら飛距離をどんどん伸ばしていた2022年のゴールデンウイークのある夜の懇親の場で、メンバーから「お釜見てないよね」「南陽からお釜に行って、帰ってきたらカッコイイよね(笑)」という声が冗談半分に挙がったんです。翌日の気象予報を見てみると、まさしくクロスカントリーフライト日和で、パラグライダー史上初の試みとなる南陽市から蔵王のお釜(北東約24km)へ向かう飛行計画が決まりました。
翌日は異常なほどの好条件で、飛ぶ前は「お釜が遠目に見られればいいな」くらいに思っていたのですが、なんとお釜直上への到達に成功、そこから折り返して南陽上空へ帰還し、更にそのまま南の米沢市まで飛行して、フライト距離74kmという自己記録を達成しました。この時に到達した最高高度3,481mは東北で一番だと思います。
出発地点は異なるもののお釜への到達は今年も成功して、3年ぶりにテレビでも紹介されました。

蔵王上空で自撮り。富樫さんの向こうに緑色のお釜が見える
───パラグライダー活動をする中で地域について思うことはありますか。
一番は地域への感謝の気持ちです。
パラグライダーは一歩間違えば自分だけでなく下にいる人も危険にさらすことになりますし、特にクロスカントリーフライトにおいては、目標地点に届かず空き地や河川敷などに着陸することもあります。不審者や墜落事故と間違われて通報されてもおかしくない状況ですが、幸いにも南陽市やその周辺地域の皆さんはパラグライダーを見慣れていて「駅まで乗せていこうか?」などとありがたい声をかけていただくこともあります。
いま私がこの地域の空を飛べるのは、地域の方々の理解や先人フライヤーの礎あってのことだということを肝に銘じて、「飛ばせてもらっている」という意識を常に持つようにしています。

───パラグライダー活動を通じて得られたことが、仕事に役立つことはありますか。
パラグライディングでは装備の付け忘れや操作ミスといったヒューマンエラーによって、残念ながら毎年一定数の事故が起きています。自分はもちろん他人を危険にさらさないよう、ヒューマンエラーのリスクを理解・啓蒙し、再発防止に努める姿勢を持ち続けることが大事です。こうした意識は私が会社で携わっている薬品管理支援システム「IASO(イアソ)」にも通じるものがあります。

薬品管理支援システム『IASO R7』 全国の大学・官公庁・民間企業で採用されている
また、私はフライトのたびにGPSを使用した記録付けをしています。これはデータの分析を通じて飛行技術を上達するために行っているものですが、正直に言えば都度の記録はちょっと面倒なのも事実です。

飛行中、腰に装着する計器ボード。スマートフォン(中央上)、気圧の変化を感知して上昇/下降を音で知らせるバリオメーター(左)、コンパス(中央下)、温度計(右上)
IASOも薬品の取り扱いに関する全ての記録が残せるのが理想ですが、記録手順があまりに面倒だと省略が横行する懸念があるため、記録の信頼性を担保しつつユーザーの負担を抑えられるような画面設計や動作仕様となるよう心掛けています。
──逆に、仕事をしていた中でパラグライダー活動に役立つことはありましたか。
組織内における意思決定の段取りは仕事で学んだと思います。
最近の話だと、着陸精度を競って遊びたくて競技用の電子パッドと液晶画面(踏むと自動でスコア表示をしてくれる)をクラブの予算で買いました。その際に、装置詳細や価格、運用方法などについて文書化してメンバーに説明したのですが、「まるで社内稟議だな」と思いました(笑)
あと南陽スカイパークは観光客の方が訪れることが多く、パラグライダーのことをほとんど知らない人へ説明することもよくあります。そういう時の相手の興味レベルに合わせた伝え方や参考資料の見せ方なども仕事で培われたものだと思っています。
──今後の目標があれば教えてください。
置賜盆地一周です。
前人未到のチャレンジで、総距離は小さく見積もっても60km以上になります。飛行距離自体は現在のパラグライダーの性能であれば特別長くはありませんが、周回するコースは直線飛行よりも難易度が上がるうえ、求められる上昇気流などの条件も厳しいことから実現は相当難しいと考えています。もちろん、もっと条件の良いエリアで直線飛行距離の数字を伸ばすといったチャレンジも魅力的だと思いますが、「南陽育ち」の私が置賜盆地一周に挑戦するということに意義があると思っています。
──読者の皆さまへのメッセージをおねがいします。
黎明期には「空飛ぶ暴走族」などと非難されたこともあり「命知らずの遊び」のように思われがちなパラグライダーですが、私は最も穏やかに空を飛ぶ手段だと思っています。
本場ヨーロッパに比べると日本のパラグライダー人口はごくわずかですが、精いっぱい活動しているので、もし頭上で見かけた際にはあたたかく見守っていただけたらと思います。特に南陽スカイパークは市の公園かつ観光名所として一般開放されているのでいつでも自由に見られます。
もし興味が沸いたら私か、私の出身スクール「ソアリングシステム パラグライダースクール」にご連絡ください!

(本インタビューは2025年7月下旬に実施しました)
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