伊藤社外取締役インタビュー ~共創で需要を大きく育てよう~

 シリーズでお届けする社外取締役インタビュー、第4回はカルビー株式会社の前社長(現相談役)の伊藤取締役です。高校時代の思い出や、カルビーでの様々な取り組み、東北電力グループへの思いなどについてお話を伺いました。

伊藤取締役の主な経歴

1999年 7月 カルビー株式会社関東事業部 事業部長

2001年 7月 執行役員 東日本カンパニーCOO

2002年 3月 執行役員 消費者部門担当

2002年12月 執行役員 CRMグループ担当

2004年 6月 取締役執行役員 じゃがりこカンパニーCOO

2005年 6月 取締役 常務執行役員 マーケティンググループコントローラー 兼じゃがりこカンパニーCOO

2009年 6月 代表取締役社長兼COO

2018年 6月 代表取締役社長兼CEO(2023年4月退任)

2023年 6月 相談役(現)

自由な高校生活で学んだ「自分の責任」

──高校まではご出身の福島で過ごされています。振り返ってどのようなことを思い出しますか。

 私が卒業した福島高校はいわゆる進学校ですが、とても自由な校風で勉強も含めてあまりとやかく言われない、ちょっと大学のような雰囲気をもった高校でした。

 私はその校風のもとで多くの時間を本や音楽、映画に触れることに費やしました。感性が一番豊かな時期に自分の判断でそういう過ごし方ができたことが、その後の人生を歩むにあたって重要なものだったと感じています。一方で勉強をした覚えはあまりなく(笑)、その結果行きたい大学には行けなかったのですが、そこを含めて自己責任だという風に受け入れることができました。社会に出てから「自分の責任で何をしなければならないのか。社会のために何をやっていこうか」といった意識が生まれたのは、ここでの経験があったからだと思っています。

 

 

──東北を離れてから、地元東北についてはどのように見られていましたか。

 東京に出てからも郷里のことは気にしていましたが、地域への思いを特に強くするきっかけとなったのはやはり東日本大震災でした。カルビーでも義援金の贈呈や被災地でのボランティア活動をしましたが、その中で自然と「地域のために何ができるか」ということを考えるようになり、福島のための商品を開発、販売しました。この商品はすごくヒットして、お客さまはこういうのを待っていたんだなと思いました。

 この経験は後に各県の地元の味を再現したお菓子を作る取り組みに繋がって、「ラブ ジャパン」という企画になりました。地元を、そして日本全体を元気にしていきたいという企画趣旨は多くの方に共感いただき、各自治体からも様々な協力を得ながら6年ぐらい続きました。

 

カルビーHPより引用

 

カルビー流の価値づくり

──これまでカルビーで携わった業務を振り返って印象的なものは何ですか。

 商品で言えば、じゃがりこですね。責任者をやっていたこともありますが、最初の頃はなかなか儲からない事業だったのが、ひとつのブランドとして確立して、グローバルに展開する商品にまで成長したことを嬉しく思っています。今ではじゃがりこだけで年間400億円もの売上があります。

 これは余談ですが、東北電力の取締役会ではいつも役員控室にじゃがりこを置いていただいています。お気遣いありがとうございます(笑)

 

 また、生ジャガイモ輸入の一部解禁に携わったことも印象に残っています。

 カルビーの事業の半分はジャガイモが原料で、特にポテトチップスは生のジャガイモからしか作れません。その意味で生のジャガイモは事業の生命線なのですが、事業が拡大するにつれ、どうしても国内で生産されるジャガイモだけでは年により豊凶もあり不足するようになっていました。

 国内生産のジャガイモが増えれば良いのですが、なかなか増産もすすまない。となれば海外から輸入しようとなるのですが、生ジャガイモは種芋として繁殖力があるために、病害虫の国内侵入防止の観点から長らく植物防疫法によって輸入が禁止されていたのです。輸出を進めたい米国、法律の所管官庁である農林水産省、そして関係する議員など様々な利害関係者との交渉を行って、輸入にあたっての条件もありましたが生のジャガイモを輸入できるようにしました。また、こうした交渉は一民間企業の立場では難しく、当時私が事務局長を務めていた日本ポテトチップス協会(現日本スナック・シリアルフーズ協会)として対応するしかありませんでした。6年がかりの取り組みでした。

 

 

 輸入解禁による今後の取引への悪影響を懸念した国内の農業団体からは強い反発を受けましたが、そもそもが国内生産分の不足を補うという目的で始めた輸入です。国内で作られたジャガイモは全量買いますということを丁寧に説明して納得いただくことができました。

 会社としても長年の課題でしたので、社内外から驚きの声が上がりました。今振り返っても我ながらよくできたなと思いますし、同時に「関係者全員から正しく理解を得る」ということの難しさも実感した出来事でした。

 

 日本は資源に乏しい国ですから、自国の生産能力を上げることももちろん大事ですが、必要に応じて、かつリスク対策として外国からも購入できるようにしておくことも同じくらい大事です。これは農作物に限らず、エネルギーについても全く同じことだと思います。

──商品ごとの競合や、販売部門と製造部門の調整など難しい面もあると思いますが、工夫されていることはありますでしょうか。

 2000年に発生した乳製品メーカーでの集団食中毒事件を受けて、当時の食品業界では社会から求められる品質保証や危機管理のレベルが一層高くなっていました。カルビーでもそのための社内体制を確立することが課題となっていて、私は「消費者部門」の担当役員として広報、品質保証部、そしてお客様相談室の連携を深めることに注力しました。

 その頃のお客様相談室は今と違ってクレーム処理のための部署という性格が強く、品質保証やマーケティング部門との連携はほとんどないというのが実態でした。しかしメーカーにおける社会との普段の接点は卸売業者や小売業者に限られている中で、実はお客様相談室への入電というのはまたとない顧客接触のチャンスなのです。

 

 

 また、これはお客さまのお申し出に真摯に対応していくと分かることなのですが、お客さまが電話をかけてくる背景には企業への不満に加えて「こうしてくれたら」という「期待」があります。企業がお客さまのお申し出を真剣に受け止め、アクションを起こし、それが伝わると大抵のお客さまは納得してくれます。「怒り」が「褒め」に変わることだって珍しくありません。

 そして、この「お客さまのお申し出に真摯に対応する」という活動は広報活動だけではなく、マーケティングにも非常に有効なのです。マーケティングというとつい費用をかけた大規模な調査をイメージしがちですが、私はマーケティング部門へのアドバイスとして「お客様相談室に聞いてみること」を勧めていました。相談室のメンバーは常日頃からお客さまのご意見を直接頂戴しているわけですから色々な蓄積がある、だから開発中の商品を持っていって意見をもらってみなさいと。行って話を聞いた結果厳しい指摘を沢山もらって帰ってくることもありましたが(笑)、そういうフィードバックは大事なことだと思います。

 私はこの部門を担当していた時期に、社内が一丸となってお客さまの方向を向くことの重要性やそのための社内体制づくり、お客さまや社会に理解されるための発信の仕方を学びました。営業でも製造でも企画でも、どの部門でもマーケティング思考が基本だと思います。今もお客様相談室は本社と同じフロアにあって、執務スペースのすぐ隣です。「お客さまの声をどうやって製品に生かすのか」は事業活動における永遠のテーマですね。

 

東北電力グループに思うこと、社員へのメッセージ

──これから当社グループがやっていくべきことについて、どのようにお考えですか。

 東北電力グループならではの「新しい付加価値」を作っていくことが大事だと思います。商売では需要と供給の両方を増やしていくことが大切で、電力の安定供給はこれまでずっとやってきたことですからこれからも大丈夫だと思いますが、需要を増やす取り組みはもっと色々なチャンスがあるのではないかと思っています。

 東北電力を例に取ると、社員の皆さんは自分たちが売っているものは「電気」だと思いがちですが、電気そのものを欲しがっている人はいません。欲しいのは電気を使うことで生まれる安心、安全、便利な暮らしといった「付加価値」なのです。これは電気に限らず他の商売、サービスでも同様です。お客さまが本当に何を欲しがっているのか、「モノからコトへ」とよく言いますが、皆さんが提供しているものでどんな価値、どんな世界を作っていくかを意識していくと良いと思います。

 カルビーは長らくトップダウン体制の会社でした。しかし規模が大きくなるにつれ、トップダウンでは新しい付加価値を生み出せなくなっていきました。私がカルビーの社長になったとき従業員にお願いしたのは「自立的実行力をつける」ということでした。もともとカルビーには「実行力」はありましたが、ここに「自立的」であることをプラスしたかったのです。いまの大きなカルビーがあるのは、従業員が自立的に動いて成長し、新しい付加価値を沢山生み出してきたことが会社全体の成長につながってきたからだと思っています。

 

 資源も限られていて人口も減っている日本では、「競争」ではなく「共創」していくことが大事です。需要はよそから取ってくるのではなく、みんなで大きく育てていくもの。リモートワークが当たり前の社会になって、地方でも支障なく仕事ができるようになりました。それぞれがそれぞれの場所で暮らしながら共に仕事をしていける時代、東北・新潟地域が持つポテンシャルはとても高いと思います。

 東北電力グループが掲げているスローガン「より、そう、ちから。」は地域に対する東北電力グループの決意が表れていると感じますし、ぜひ東北の他の会社にはできないことをやってほしいですね。東北出身者のひとりとして応援したいと思っています。

 

 

──最後に、社員にメッセージをお願いします。

 「やらなくちゃいけないこと」と「自分がやりたい仕事」が重なっている部分、これが一番やっていて楽しいところです。皆さんにも必ず見つかると思います。「なんでこんなことを…」と思うような仕事でも、やっているうちにやりたいことが見つかってくるはずです。

 「自分がやりたい仕事」を見つけるために東北電力グループの皆さんにはぜひ、他の部門やグループ内の他の会社を始めとして、社会全体にアンテナを張って関心を持ってほしいです。毎日同じ部屋で、同じ顔触れで仕事をしてもいいものは生まれません。とにかく外に出て、外から自分たちがどのように見られているのか感じることが大事なのです。外の世界に目を向けると、気になること、疑問に思うことが色々あると思います。それを自分の組織や仕事と重ねることで「自分がやりたい仕事」が見えてきます。意識を内側に向けることなく、外の世界に関心をもって仕事をしていきましょう。

 

 

 


 

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