「朝の来ない夜はない」~海輪相談役インタビュー~

 震災から10年。東北電力のトップとして震災を乗り越えた海輪相談役のインタビューを全10回シリーズで連載していきます(「公研11月号」記事を再掲載しています)

別世界で暮らしたい

── 1949年東京のお生まれですね。

 東京都足立区の北千住で、鞄職人の3人兄弟の次男として生まれました。北千住は、今でこそ多くの路線が乗り入れるターミナル駅のある近代的な街ですが、当時は都電の終着駅ということもあって東京の外れというイメージが強かったですね。それに奥州街道の宿場町のなごりか、近所には遊郭跡も残っていて子ども心に近寄ってはいけない雰囲気を感じるところもありましたよ。
 有名だったのは、東京電力千住火力発電所のお化け煙突です。実際は4本なんですが、見る角度によって1本から4本まで変わるのでお化け煙突。小津安二郎の『東京物語』なんかにも登場します。隅田川沿いの石炭火力で、船で運んだ石炭を野積みし、モクモクと煙を出していたので辺り一帯煤けていましたが、子供は気にしないで走り回って遊んでいましたよ。みんな、町のシンボルとして親しみがあったように思います。

 

土手から見えるお化け煙突の様子
出所 足立区立郷土博物館

 

── どんな少年でしたか?

 外で遊ぶのも好きでしたが、本が大好きでした。漫画や童話、探偵小説など子ども向けに限らず、歴史、紀行などジャンルは何でも良かった。たまに親から新しい本を買ってもらうと何時間もおとなしく読んでいる子でしたが、お小遣いは少なかったので、貸本屋や図書館には本当にお世話になりました。貸本屋は当日すぐに返すと料金が安かったので週に3、4回は通いましたね。
 未だに忘れられないことがあります。近所に廃品回収業の家族が住んでいて、リヤカーで回収してきた雑誌や新聞を空地に山積みしていました。その山の中からマンガや少年雑誌を探し出して、天気の良い日には一人で何時間も読み耽ることがありました。
 手塚治虫さんの『ロストワールド』などSF漫画を最初に読んだのも、その廃品の山に寄りかかってのことでした。中でも「今自分が暮らしている世界とは別の世界が同時に存在している」というパラレルワールドの話に強烈な魅力を感じたことを今でも時々思い出します。私は後に「別世界で暮らしたい」という思いを抱くようになるんですが、その原点だったかもしれませんね。

── なぜ別世界で暮らしたいと考えるようになったのでしょうか。

 男3人兄弟の次男ということもあるんでしょうが、物心付いた頃からなぜか「自分の居場所はここにはない」という感覚がありました。家は鞄屋と言っても家内制手工業で、すべて分業の手作り。問屋さんから革や布、接着剤などの材料をもらい、両親と若い職人2人が工場と呼ばれた8畳部屋で、朝から晩までハンドバッグをつくっていました。
 狭い平屋に祖父母や若い職人さんも同居していましたから、子ども部屋などもちろん無く、茶の間で寝食一切をする生活でした。身体が大きくなってからは、布団を敷く場所や勉強机の取り合いで良く兄弟喧嘩をしたものです。
 昔の下町では、跡取りの長男には学業をさせるが次男以下は手に職を付けて外に出すというのが当たり前でした。しかし、父は「自分は小学校を出て直ぐ奉公に出され勉強できず悔しかった。だからお前たちには教育を受けさせたい」と私たちによく言っていました。ご近所では教育熱心な家だったと思います。
 でも、実のところ「3人の息子を大学まで」は難しいと思っていたんではないでしょうか? 私はそんな空気も自然に感じていて、中学の頃には「大人になったら別の世界で自立する。そのためには人一倍勉強して良い学校に行かなければ…」との思いが強くなりました。
 東京五輪があった中3の夏、親に内緒で特別奨学生の試験を申し込みました。その合格通知に両親は大喜びしてくれましたが、私としては「自立への第一歩」という意識でした。その後、高校、大学を通じて奨学金を頂きました。これがなければ、大学卒業まで行けなかったでしょうから、奨学金には本当に感謝しています。東北電力に入社後、妻とも相談して30代初めまでに全額繰り上げ返還しました。今でも親を亡くしたり、経済的な理由で教育を受けられなかったりする子どもたちの話には弱いですね。

 

中学3年、修学旅行にて

 

次回「肺結核で1年半の病院通い」へ続く

 

これまでの連載

第1回「2011年3月11日14時46分」

第3回「肺結核で1年半の病院通い」「人生最初の岐路になった大学受験」

第4回「二人で仙台の街を何時間も歩き回る」「「海輪」姓を継いでほしい」

第5回「子持ちの青年部長」

第6回「基幹システムの設計を任される」「東北・新潟地域にメリットを残す」

第7回「みんなに助けられた新潟県中越沖地震」「情報伝達の壁を取り去る」

第8回「車中の仮眠なら夜明けとともに作業できる」「社員のやる気を失わせまいと考えた」

第9回「電力システム改革に抱いた懸念」「それでも地域にこだわる」

第10回「東北はもっと怒っていい」

イイね!
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